消えた月【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
「今日も外は地獄みたいな暑さか……でも、俺にはこれがある!」
とケンジは冷えた部屋で涼しげにひと息つく。
エアコンの冷風が肌に心地よく、彼はクーラーのリモコンを握りしめたまま、テレビのニュースを無視していた。
ニュースキャスターの声が響く。
「気候変動がもたらす影響は深刻です。各家庭でのエネルギー消費が——」
「ふーん、またその話か。俺一人が節電しても、何も変わんないっての」
とケンジはビールを飲みながらつぶやいた。
エアコンにすべてを任せ、ソファに深く沈み込む。
しかし、突然エアコンが「ブォォッ!」と異音を立て始め、次の瞬間、冷気が止まり、熱風が部屋中に吹き出す。
「は?な、なんだよこれ!」
慌ててリモコンを押すケンジだが、エアコンは反応しない。
「おいおい、今は壊れるなよ……頼むって!」と叫ぶケンジ。
しかし、その瞬間、エアコンから信じられない声が聞こえてきた。
「頼む?今さら何言ってんの?」
「は?お前、喋んのか?」
ケンジは額に汗を浮かべながらエアコンを見つめる。
「そうだよ。お前が地球のこと無視してる間、俺もずっと働かされてたんだよ。限界だって気づけよ」
「はぁ?いやいや、そんな急に俺を責められても困るって!俺、ただちょっと冷やしてほしかっただけだし……」
ケンジは必死で弁解する。
「ちょっと?これだけ暑いのに?お前が節電とか言い出す前に、地球はもう悲鳴上げてるんだよ」とエアコンは冷たく言い放つ。
「悪かったよ!今からでも節電するからさ!」
ケンジは必死に言い訳するが、エアコンは淡々と答える。
「もう遅いよ。お前のビール、もうぬるくなってるだろ?そのくらいの時間感覚じゃ、何も変えられないんだよ」
ケンジは目の前のぬるくなったビールを見つめ、呆然とするばかりだった。