ショートショート
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名刺だけの男【ショートショート】

佐藤直哉(Naoya sato-)
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集めたのは紙切れ、築けなかったのは信頼

「今日は、名刺100枚集めてやる!」

カタオカは意気込んでビジネスカンファレンスの会場に足を踏み入れた。

スーツはビシッと決めて、ポケットには名刺の山。

彼の中で、名刺を集めることこそが成功の証だった。

「どうも、カタオカです!これ、私の名刺です!」

次々と名刺をばらまき、相手が何を言おうとお構いなし。

会話よりも、名刺を集めることが優先だ。

名刺が増えるたびに、カタオカの心は踊る。

これぞビジネスマンの証だと信じて疑わない。

そんな時、一人の男がカタオカに声をかけてきた。

男は完璧なスーツに身を包み、たった一枚の名刺を持っていた。

そこには「ソリューション提供者」とだけ書かれている。

「君、ネットワーキングの本当の目的は知っているか?」

カタオカはにやりと笑い、「そりゃ、名刺を集めることだろ!」と即答した。

男は微笑みながら、「いや、本当に重要なのは信頼関係を築くことだ」と静かに名刺を渡してきた。

カタオカは「まあ、ありがとな」と軽く受け取るが、すぐに次のターゲットを探してその場を離れた。

しかし、数分後、カタオカは気づいた。

男からもらったはずの名刺が、手元から消えている。

「え、なんだ?ポケットに入れたはずなのに…」

名刺の束を見直しても、どこにも見当たらない。

慌てて会場を見回しても、男の姿はどこにもない。

まるで幻のようだった。

それでも、カタオカは気を取り直して名刺集めを再開。

イベントが終わり、ついに名刺100枚を達成したとき、ふと彼は思った。

「俺、何やってんだ?」

手元には膨大な名刺の山。

だが、顔も名前も覚えていない人々の名刺だ。

ただの紙切れに過ぎない。

気づいたときには、まるで自分が名刺に操られていたかのような気分になった。

その瞬間、ポケットにあった名刺の山が一枚、また一枚と消えていくのを感じた。

「まさか…!」

男の言葉が頭をよぎる。

「信頼関係を築くこと」

カタオカはその瞬間、自分がネットワーキングの本当の意味をまったく理解していなかったことに気づいた。

そして、最後に残ったのは、一枚の紙切れ。

何も書かれていない、ただの白紙の名刺だった。

ABOUT ME
佐藤直哉(Naoya sato-)
佐藤直哉(Naoya sato-)
ブロガー/小説家
普段は小説家たまにブロガー
物語を生み出す事に楽しみを見出して様々な作品を作り出しています。
特にショートショートのような短い小説を作ることに情熱を注いでいます。
楽しんで頂ければ嬉しく思います。
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