理想の味はどうですか?【ショートショート】
追いかけた理想、最後に味わうのは甘い現実
高級レストランの窓際に座る彼女は、まさに俺の理想そのものだった。
流れるような髪、洗練された服装、優雅な仕草。
何もかもが完璧だ。
長年探し続けた理想が、目の前にいるなんて信じられない。
俺はこの瞬間をずっと夢見ていた。
ディナーも終盤、ついに覚悟を決めて俺は切り出した。
「君は、俺がずっと探していた理想の女性だよ。君となら、完璧な人生が送れるって信じてる」
彼女は少しだけ微笑んで、ワインを飲みながら首をかしげた。
「理想?それって、雑誌の特集か何かで見た話?」
「いや、違うよ。俺の心の中にずっとあったんだ。君みたいな完璧な人と出会うために…」
「へえ、面白いわね。でも、理想って現実とは違うのよ。完璧な人なんて存在しないし、完璧な人生もないわ」
彼女はワインをくるくると回しながら、あくまで冷静に答えた。
俺は一瞬固まった。
何を言っているんだ?
「…そんなことない。理想は追い求める価値があるはずだ」
彼女は肩をすくめ、まるで当たり前のことを教えるように言った。
「現実は理想とは違うのよ。理想ばかり追いかけていたら、現実に痛い目に遭うわよ。例えば、お金の問題とか、感情のズレとかね。現実には面倒がつきものなの」
俺はその言葉を聞きながら、心の中で何かが崩れていく音を感じた。
理想の女性に、理想の否定を突きつけられるなんて、皮肉が効きすぎだ。
俺はため息をつきつつ、苦笑して言った。
「現実は厳しいもんだな。理想に夢見てた俺がバカだったのかもな」
その瞬間、ウェイターがタイミングよくやってきた。
「お客様、デザートはいかがでしょうか?」
俺は一瞬メニューに目を向けたが、深く考える気にもなれず、「デザートか…いや、現実を受け入れないとな。甘いものに逃げても仕方ないよな」とつぶやいた。
すると、ウェイターがにこやかにメニューを広げた。
「本日のおすすめは『理想のプリン』でございます」
…は?
俺は驚きで思わずメニューを二度見した。
「……理想のプリン?」
ウェイターは堂々と頷き、「はい、当店自慢のデザートで、理想の形をそのまま味わえます。まさに完璧な一品です」
俺は一瞬考え込んだが、ふと笑いがこみ上げてきた。
「じゃあ…理想を一つ、最後に味わってみるよ」