無難な選択【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
タナカは毎朝、鏡に向かって「成功を引き寄せるぞ!」と自分に言い聞かせていた。
半年が過ぎても引き寄せられたのは顔の筋肉痛だけ。
昇進も成功も一切ない。
むしろ、同僚たちはタナカから距離を取り始め、「最近、タナカおかしくない?」と噂している。
「まだだ、もっと強く念じれば引き寄せられる!」
タナカは信じ続けたが、同僚たちはますます遠ざかっていく。
成功どころか、孤立しているのではないか?
そんな疑念が浮かんだものの、彼は相変わらず引き寄せを信じてやまなかった。
ある日、上司に「タナカ、大丈夫か? 精神科に行ったほうがいいんじゃないか?」と言われ、しぶしぶ病院へ行くことに。
医者に診察され、「引き寄せの法則? いや、それよりもまず行動しないと何も変わらないよ」と現実を突きつけられる。
しぶしぶ仕事の改善策を提案してみると、驚くことに少しずつ成果が出始めた。
「これだ、これが引き寄せの力だ!」とタナカは歓喜したが、周囲は冷たい視線を送り続ける。
「いや、それはただの努力の結果だろう?」
その夜、タナカは夢を見た。
机に転がっている使い古しのペンが光り出し、こう囁いた。
「お前、いつになったら気づくんだ? お前が俺を使ったからここにいるんだ。行動しなきゃ、何も引き寄せられないんだよ?」
タナカは呆然としながらペンに言い返す。
「お前にまで説教されるなんてな…」
翌朝、タナカは鏡を見つめながら小さく呟いた。
「次は消しゴムか…まあ、それなら消えてくれればありがたいけど」