電車の中の小さな奇跡【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
「最初に出会った相手は選ぶな。その人を見送って、次に現れる人が本当の相手だ」
友人がそんな妙な理論を持ち出した時、俺は「それは面白い」と半ば冗談半分で聞き流した。
だが、その理論が頭から離れない。
過去の恋愛を振り返ってみても、確かに最初に飛びついた相手は大抵失敗だった。
それから俺は、「次こそ本命だ」と信じ、最初に出会った人をすべてスルーしてきた。
心の中では「俺の選択は完璧だ」と誇りに思いながら。
しかし、待てど暮らせど次の「本命」は現れない。
俺の理論が間違っているはずはない。
だが、焦燥感が広がっていく。
そして、公園で猫を抱いた女性に出会った。
「これが運命だ!」と心の中で叫んで、意気揚々と声をかけた。
「猫、かわいいですね」
すると彼女はにっこり笑って、「この猫、賢いのよ。誰を信じるかよく分かってるの」と言い残して立ち去っていった。
俺はしばらく立ち尽くし、猫の残像を見つめながら思った。
「俺が見送られる側だった…か」