何かに追われていた午後【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
「成功にはグリットが必要だ!」
男は意気揚々と毎朝5時に目覚ましをセットし、自己啓発本を片手に仕事へと向かった。
グリットとは、どんな困難にも挫けず努力を続ける力のこと。
つまり、根性だ。
しかし、いくら根性を見せても、成果は上がらない。
むしろ、上司に「もう少しやる気を出せ」とまで言われる始末。
一方で、同僚の鈴木は定時退社を繰り返し、趣味に没頭する日々。
そんな鈴木が昇進したと聞いて、男は愕然とした。
「おい、グリットが足りないんじゃないのか?」
男が問い詰めると、鈴木はあっけらかんと笑い、「グリット?そんなの、ただの自己満足だろ」と返した。
男は鈴木の言葉を反芻し、自分が何を信じていたのかに初めて疑問を抱いた。
時計の針が進む音が、いつもより重く響いた。