小噺ショート
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風に舞う時間【ショートショート】

佐藤直哉(Naoya sato-)
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急いでいると、失くすものもある

朝、僕は目を覚ますと、いつものようにベッドサイドの時計を見た。

針は僕の一日の始まりを無言で告げている。

時間に追われる毎日は、いつからこんなにも息苦しくなったのだろう?

僕はため息をつきながら、コーヒーメーカーのスイッチを押し、冷めきった心を少しでも温めようとした。

オフィスへ向かう道は、いつもと変わらないはずだった。

だが、今日に限って、僕の視線は道端に転がる小さな書類の束に引き寄せられた。

それは風に揺れ、まるで僕に何かを語りかけるようだった。

僕は立ち止まり、ほんの一瞬、手を伸ばすべきか迷った。

しかし、心の中のどこかで「時間は金なり」という声が僕を急かした。

結局、僕はその書類を無視して、足早にオフィスへと向かった。

オフィスの前には、普段は見慣れない光景が広がっていた。

社員たちが集まり、ざわざわとした空気が漂っていた。

何が起こったのかを尋ねる間もなく、社長の青ざめた顔が目に入った。

「大事な契約書が見つからないんだ」と彼はつぶやいた。

その言葉が、まるで心臓に針を刺すように僕の胸に響いた。

あの書類。

僕はその場に立ち尽くした。

時間を惜しんだ結果、見逃してしまったものがどれほど大きかったかを、今になってようやく理解したのだ。

手を伸ばしていれば、何かが変わったのだろうか?

でも、今となってはそんなことを考えても無意味だ。時計の針は決して戻らない。

「時を惜しんで金を失うとはな…」

僕は自嘲するように呟いた。

けれど、その言葉は空虚に響くだけだった。

僕の信じていた「時間は金なり」という信念は、まるで薄い霧のように消え去った。

そして僕は、風に揺れる書類をもう一度思い浮かべた。

その書類は、もはやただの紙切れ以上のものに過ぎないと知りながら。

ABOUT ME
佐藤直哉(Naoya sato-)
佐藤直哉(Naoya sato-)
ブロガー/小説家
小説を書いていたはずが、いつの間にか「調べたこと」や「感じた違和感」を残しておきたくなりました。
このサイトでは、歴史の中に埋もれた謎や、日常でふと引っかかる“気になる話”をもとに、雑学記事、4コマ漫画、風刺ショートショートとして発信しています。
テーマはちょっと真面目。
でも、語り口はすこし皮肉で、たまにユーモア。
「なんかどうでもよさそうなのに、気になる」
──そんな話を集めて、掘って、遊んでいます。
読んだ人の中に“ひとつくらい、誰かに話したくなる話”が残れば嬉しく思います。
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