未来予報【ショートショート】
期待が重すぎると、未来は軽くなる
「未来予報」という名のAIが話題になっていた。
このAIは、子供の将来の幸福度を予測できるという。
親たちの不安と期待を一手に引き受ける存在だ。
ユウヤとマナミも、その評判に引き寄せられ、娘の未来を占ってもらうことにした。
「これで、私たちの育児が正しかったかどうかがわかるわね…」と、マナミは緊張の面持ちで言った。
ユウヤは「そうだな。でも、まあ大丈夫さ」と軽く答えたものの、内心では少しの不安が渦巻いていた。
診断の日、AIは冷徹な声で結果を告げた。
「お嬢様の将来の幸福度は非常に高いです。ただし、親御さんが過度な期待を抱かない限りは」
「やったわ!」
マナミは声を弾ませ、ユウヤも「これで一安心だな」と満足げに微笑んだ。
二人はまるで宝くじに当たったかのような高揚感に包まれながら、家路に着いた。
数年後、娘が名門大学に合格した日、ユウヤは「これで将来は間違いなしだ!」と胸を張り、マナミは涙を流しながら「私たちの努力が実を結んだわ!」と感動に浸った。
その夜、未来予報から再び通知が届いた。
「再評価の結果、お嬢様の幸福度は大幅に低下しました」
画面に表示された冷たい文字に、ユウヤとマナミはしばし言葉を失った。
「えっ、どういうこと?」
ユウヤは困惑し、マナミは「AIが故障したんじゃないかしら…?」と不安を募らせたが、二人は結局、その理由を深く考えることはしなかった。
「まぁ、最終的には娘は幸せになるだろうし、あまり気にしすぎるのもよくないよ」
ユウヤは気楽に肩をすくめ、マナミも「そうね、考えすぎても仕方ないわ」と、かすかに笑みを浮かべた。
だが、彼らは知らなかった。
彼らの「過度な期待」という無意識の重荷が、娘の未来を静かに蝕んでいることを。
そして、その重荷が徐々に彼女の「幸福」と思われたものを確実に奪っていくことを。
幸福とは何か――その問いに真剣に向き合う日は、きっと遠くない未来に訪れるだろう。