願いの代償【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
彼はいつもポジティブだった。
会社が倒産しても「経験値アップだ!」と豪語し、家族が風邪を引いても「これで免疫力が上がる!」とにこやかに言い放つ。
彼のモットーは「笑っていれば、すべてうまくいく」
しかし、その夜、彼にとって最大の試練が訪れる。
真夜中、玄関のドアが激しい音を立てて壊され、マスクをした男がナイフを持って侵入してきた。
彼は一瞬だけ驚いたが、すぐにいつもの笑顔を浮かべた。
「おやおや、今日は特にハードなクエストだね!」
強盗はその反応に一瞬戸惑いを見せた。
ナイフを突きつけられているのに、彼はまるでゲームを楽しんでいるかのようだ。
「お金は取っていい。ただ、もし学べることがあれば教えてほしい」と彼は頼んだ。
「学びたいこと?」
強盗は冷ややかに笑った。
ナイフを彼の胸元に軽く押し当て「現実は甘くない。お前の『笑顔』が救えるのは、お前だけだ」と言った。
その言葉に彼はしばらく黙り込んだが、やがて小さく笑った。
「そうかもしれないね。でも、俺は笑うことでここまで来たんだ」
翌朝、彼の家の壁には新たな標語が掲げられていた。
「笑顔は自分を守る盾。でも、現実の刃には効かない」
彼の家族はそれを見て、苦笑しながらつぶやいた。
「その盾、見た目だけは立派ね」