信頼のジレンマ【ショートショート】
信頼を裏切られたその先に待つ、冷徹な決断
「信頼って、一体何だろうな?」
ヤマダは、プロジェクトの進捗を確認しながら、何度も自分に問いかけていた。
ナカムラは無口で、いつも感情を隠しているように見えたが、それをヤマダは「堅実な奴だ」と無理に思い込もうとしていた。
しかし、心のどこかで違和感を覚えていた。
ナカムラはいつも冷静だった。
プロジェクトの報告をするときも、その表情には一切の動揺が見られなかった。
ヤマダはその無表情さに徐々に不安を感じるようになっていたが「信頼できる」と自分に言い聞かせていた。
ある日、上司がヤマダに言った。
「これが成功すれば、君の昇進は確実だ」
ヤマダは内心でガッツポーズを取り、ナカムラに「俺たち、やったな」と声をかけた。
ナカムラは無言で頷くだけだったが、その目に一瞬冷たい光が走ったのを、ヤマダは見逃さなかった。
翌朝、ヤマダは上司に呼び出され、会議室で無情にも解雇を言い渡された。
「なぜ?」と喉元まで出かかったが、上司の冷たい視線を受け、その理由はすぐに理解できた。
ヤマダは絶句し、重い足取りでデスクへと戻ろうとした。
デスクに戻る途中、ナカムラが上司の部屋に入るのが見えた。
ヤマダは思わず足を止め、ドアの隙間から中を伺った。
そこには、ナカムラと上司が親しげに話している姿があった。
二人の笑い声が耳に届いた瞬間、ヤマダの中でそれまで築き上げてきた信頼が音を立てて崩れ去った。
数ヵ月後、ヤマダはカフェで履歴書を整理していた。
ふと顔を上げると、見覚えのある顔が目に入った。
「ナカムラ……?」
ヤマダは驚いた。
ナカムラもまた、履歴書を手に座っていた。
「ヤマダ……久しぶりだな。俺も解雇されたんだ」
ナカムラは苦笑いしながら続けた。
「どこも厳しくてさ……」
ヤマダは冷静を装って尋ねた。
「それで?」
ナカムラは少し間を置いてから、切実な表情で言った。
「もう一度、一緒にやり直さないか?今度こそ、ちゃんとやれる気がするんだ」
ヤマダは一瞬だけ考えた後、冷ややかな笑みを浮かべた。
「冗談じゃない!」
そして、立ち上がりカフェを後にした。
ヤマダの背中が見えなくなった後、ナカムラは履歴書に目を落とし、ため息をつきながら一言呟いた。
「俺の信頼、どこかで売ってないかな……?」