少年のヒーロー計画【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
ヤマダは長年ギャンブルの世界に身を置いてきた。
勝ちも負けも、すべて味わってきたが、ある日、彼は思い立った。
「勝つためには、賭けそのものを避けるしかない」と。
どんなに巧妙な戦略を練ろうとも、運命の気まぐれには勝てない。
だから、彼は一切の賭けをやめる決意をした。
「これで、俺の人生は安泰だ」と、軽くなった財布をポケットにしまいながら、ヤマダはカジノを後にした。
しかし、カジノの光が遠ざかるにつれ、心に不安が広がった。
「これで本当にいいのか?」と、ヤマダは自問しながら街を歩いた。
やがて、彼の目に入ったのは静かに佇む宝くじ売り場。
輝くネオンが彼を誘うかのように点滅している。
「少しだけなら…」
ヤマダは自分に言い聞かせるように、宝くじを一枚手に取った。
数日後、ヤマダは期待と不安を抱えて再びその売り場を訪れた。
しかし、スクリーンに映し出されたのは「ハズレ」の文字だった。
「どうして…理論は完璧だったのに」と、彼は呆然と立ち尽くした。
その時、背後から静かな声が聞こえた。
「坊や、人生ってのは、結局何かに賭けなきゃ動かないもんさ」
振り返ると、売り場のおばちゃんが微笑んで立っていた。
「なんで…おばちゃんがここに?」
ヤマダが尋ねると、彼女は軽く肩をすくめて言った。
「さあね、でも人の顔を見てりゃ、いろんなことが分かるもんだよ。長いことこの商売やってるとね」
ヤマダはその言葉にしばらく沈黙し、深く息を吐いた。
「結局、どんな選択をしてもリスクは避けられないってことか…」
彼は握りしめた宝くじを見つめ、苦笑しながら自分の無力さを感じた。
「まあいいさ…どうせ俺は、次もまた賭けるんだろうな」
そうつぶやきながら、ヤマダは笑みを浮かべ、再び賭けの道へと足を踏み入れた。