英雄行為の価値はいくら?【ショートショート】
助けるたびに貯金が減り、技術が増える
「ヤマダくん、今朝も元気だね!」と同僚に挨拶されながら、いつもの道を歩いていたヤマダ。
そのとき、突然「助けて!」という叫び声が聞こえた。
振り返ると、川に老人が落ちているではないか!
周りの人々はただ見ているだけ。
ヤマダはため息をつきながらも「仕方ない」と呟き、迷わず川に飛び込んだ。
「大丈夫ですか?」と声をかけながら、必死に老人を引き上げるヤマダ。
周囲からは拍手が巻き起こったが、彼のスーツは水浸し、携帯も壊れてしまった。
通勤時間も遅れてしまい、ヤマダの一日は波乱の幕開けだった。
数日後、会社で「社員の鏡」として表彰されたヤマダ。
しかし、スーツのクリーニング代と壊れた携帯の修理代がかさみ、財布の中身はほとんどなくなってしまった。
さらに、上司からは「遅刻は許されない」と厳しく叱責された。
英雄行為の代償は予想以上に大きかった。
それでも、ヤマダは学んだ。
新しいスーツは防水仕様を選び、携帯も防水機能のあるものに買い換えた。
水難救助の技術を学び、応急処置の訓練も受けるようになった。
その結果、次に同じような状況に遭遇したとき、彼は冷静に対応することができた。
次に人を助けた時、ヤマダは完璧に対応した。
だが、今度は泥だらけの現場でスーツが汚れ、救助中に腕時計が壊れてしまった。
クリーニング代と新しい腕時計の代金がかさみ、残っていたわずかな貯金も目に見えて減っていった。
しかし、ヤマダはどんな緊急事態にも対応できる自信を手に入れていた。
ある日、テレビのニュースでヤマダがインタビューを受けることになった。
彼が助けた人々が涙ながらに感謝を述べ「あの若者がいなかったら、私はどうなっていたことか」と語った。
ヤマダは苦笑しながらも、今回は堂々とした態度でカメラの前に立った。
無償の英雄行為の価値、それは感謝の言葉と、どんな状況でも対応できるスキルと自信を得ることだった。
翌日、ヤマダは新しい防水スーツと携帯の請求書を手にしながら、残り少ない銀行残高を確認する。
無償の英雄行為の価値、それは金銭的な厳しさを感じつつも、確かな技術と準備によって得られる安心感であると実感した。
そして、次に人を助ける前に保険に入っておこうと心に決めた。