増強装置の代償【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
高級レストランの個室。
豪華なシャンデリアの光がワインのグラスに反射し、部屋を柔らかく照らしていた。
トニーは革張りの椅子に深く腰掛け、手には高級ワインのボトルを持っていた。
その前には、冷や汗をかきながら硬直して座るマイクがいた。
トニーはワインを注ぎながら、微笑を浮かべた。
「マイク、信頼関係って大事だよな。お前が俺を裏切らないって信じてるから、こうして話ができるんだ」
マイクは喉が乾いているのか、何度も唾を飲み込んでから頷いた。
「そうですね、ボス。信頼関係がなければ、俺たちの組織は成り立たないです」
彼の声は震え、目は泳いでいた。
心の中では、逃げる手段を必死に探していた。
トニーはその様子を見逃さず、冷たい笑みを浮かべた。
「実はな、マイク。お前が裏切ってるって知ってたんだよ」
その瞬間、ドアが静かに開き、無言の部下たちが入ってきた。
マイクの顔色が青ざめ、立ち上がろうとしたが、すぐに取り押さえられた。
「ボス、誤解です!本当に!」
叫ぶマイクに、トニーは静かに首を振った。
「信頼関係があれば、こんなことにはならなかった。お前の最後の晩餐だ」
トニーはワインを一口飲み干し、満足そうに頷いた。
「ところで、このワイン、なかなかいい味だな。裏切り者を始末する前に飲むにはもったいないくらいだ」
部下たちがマイクを連れ出すと、トニーは一人残された。
個室に響く遠くからのマイクの悲鳴が静寂を破る。
トニーはその音を聞きながら微笑んだ。
「信頼があるからこそ、俺たちは強くなれる。信頼がなければ、ただの裏切り者の集まりだ」
ワイングラスを見つめながら、トニーはもう一度つぶやいた。
「本当に、信頼って大事だな」
彼の言葉が個室の中に響き渡り、まるでその重みが空気を圧迫するかのようだった。