エコの裏側【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
キムラは駅前で親切者として知られていた。
毎朝、落とし物を拾い、困っている人を助けるのが日課だ。
ある日、奇妙な男が現れ「あなたの親切心を統計に取りたい」と話しかけてきた。
キムラは面白がって協力した。
数日後、調査結果を見たキムラは驚愕した。
助けた人々の20%は再び落とし物をし、30%はまた困りごとに直面し、50%は彼の親切を当然のように受け取っていた。
さらに職場では、同僚のヤマダが「君は親切だから、この仕事もお願い」と言い、キムラに仕事を押し付けていた。
その夜、キムラは鏡の前で自問自答した。
「親切って、本当に意味があるのか?」
答えは見つからなかった。
それでも彼は信念を曲げることはできず、翌日もいつものように駅前に立ち続けた。
だが、キムラは知らなかった。
あの奇妙な男が実は大手企業の社員で、キムラの親切心をビジネスの材料にしていた事を。
その統計を基に、企業は「親切心を持つ人を利用する方法」というマニュアルを作成し、社員教育に活用していた。
数カ月後、キムラはその企業から「親切心が評価され、モデルケースに選ばれました」との手紙を受け取った。
彼は一瞬喜んだが、すぐに彼の親切を当てにした依頼が次々と押し寄せ、彼の時間とエネルギーは限界に達した。
企業のモデルケースとして公に紹介されたことで、彼の親切心は社会全体の期待となり、逃れられない重荷となった。
キムラの善意は、気づかぬうちに彼自身を追い詰める結果となっていた。