危険人物は英雄【ショートショート】
隠された天才の行為は、再び国を守るために
田舎町に住む中年サラリーマン、ミウラは、見た目も中身もごく普通の男だった。
週末には釣りに出かけ、夜はビール片手にテレビを見て過ごす。
だが、彼には一つの秘密があった。
幼い頃から爆弾作りの天才であり、その才能をひた隠しにしていたのだ。
ある日、テロリストが突然町を占拠し、政府も手をこまねいている状況だった。
ミウラは心の中で決意した。
「この町は俺が守る!」
ガレージの奥に隠していた材料を引っ張り出し、一晩で精巧な爆弾を作り上げた。
夜が明ける前に、ミウラは忍び足でテロリストのアジトに近づいた。
彼の手には、まるで子供の頃の実験道具のように馴染んだ爆弾が握られていた。
慎重にタイミングを計りながら爆弾を設置し、静かにその場を離れた。
数分後、轟音と共にテロリストたちは一掃された。
町の人々は歓声を上げ、テロリストを一掃した者を英雄として讃えた。
しかし、その喜びも束の間、彼の爆弾の残骸が極めて精巧であることに気づいた専門家たちは、その製造者が普通の市民ではないと判断した。
徹底的な調査の末、ミウラが長年にわたり爆弾の知識を持っていたことが判明し、彼は危険人物として逮捕された。
法廷でミウラは「国を救ったのに、どうして?」と訴えたが、裁判官は冷淡に「どんな理由であれ、爆弾製造は許されない」と言い放った。
ミウラは刑務所に送られ、彼の行為は広く知られることはなかった。
政府は町を救った英雄の存在を隠蔽し、ミウラの名が公に語り継がれることはなかった。
それでも、ミウラが救った町は平和であり続けている。
町の人々は、誰が救ったかを知らないまま、その平和を享受していた。
ミウラの独房には誰も訪れず、感謝の言葉も届かない。
彼が成し遂げた偉業は闇に葬られた。
しかし、彼は独房で静かに微笑みながら、「この町を守ったのは俺だった」と心の中でつぶやくのだった。
それが彼にとって唯一の誇りだった。
そして驚くべきことに、彼の爆弾の技術は政府によって秘密裏に研究され、国家の防衛力を高めるために利用されていたのだった。
ミウラの発明は、再び国を守るために使われていたが、結局、彼自身がそのことを知ることはなかった。