何かに追われていた午後【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
彼は高校の首席だった。
成績は常にトップ、卒業式では校長から特別表彰を受け、その未来は誰もが羨むものだった。
そして、社会に出てみると、彼の優秀さはすぐに評価され、仕事も順調に進んでいた。
だがある日、彼は偶然にも同級生のタナカと再会する。
タナカは高校時代、平均的な成績だったが、今や億万長者となっていた。
「どうして君はそんなに成功したんだ?」
彼は驚きを隠せずに尋ねた。
タナカはにやりと笑って答えた。
「簡単なことさ。学校で教わったことなんて、現実の世界ではほとんど役に立たないんだよ。実際は、人間関係と運、それに少しの図太さが全てだ」
その言葉に彼はショックを受けた。
知識を積み重ねることに全てを捧げ、リスクを取ることを避けていた自分に気づいたのだ。
彼は自分の人生を変える決意を固めたが、その決意は実を結ぶことはなかった。
彼の中にはまだ、失敗を恐れる小心者が住んでいたからだ。
結局、彼は安定した職に留まり続け、その生涯を終えた。
人生が終わる間際、彼はふとタナカの言葉を思い出した。
「やっぱり、僕には無理だったか」
そうつぶやいて、彼は苦笑しながら息を引き取った。
人生の最後に、彼は気づいた。
努力だけでは超えられない壁があり、それが彼を縛り続けたのだと。
彼の運命は、最初から決まっていたのかもしれない。
なんだかんだで、現実は厳しいものだなと、彼の物語はそう教えてくれるのだった。