甘い蜜か、苦い現実か【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
未来のある日、ドローン宅配が完全に日常の一部となった街。
住民たちは注文した品が瞬時に届けられる便利さを享受していた。
どこを見ても、空には無数のドローンが飛び交い、生活の一部として溶け込んでいた。
ある朝、田中さんは玄関先で奇妙な荷物を見つけた。
注文した花瓶の代わりに、隣の家から届いた犬の餌だった。
田中さんは眉をひそめ「何があったんだ?」と困惑しつつも、仕方なく荷物を持ち上げた。
山田さんも、子供の誕生日ケーキを楽しみにしていたが、届いたのは庭の芝生用の肥料。
子供は泣き出し、山田さんは深いため息をついた。
住民たちは次々と誤配に巻き込まれ、怒りと混乱が広がった。
ドローン宅配会社は事態を重く見て調査を開始。
すると、ドローンたちの誤配の背後には、悪意あるコードが仕込まれていることが判明した。
そのプログラムを書いたのは、かつて解雇された技術者だった。
彼は解雇に対する復讐心に燃え、ドローンの制御システムをハッキングし、誤配を引き起こしたのだ。
「これで思い知るだろう」と技術者はほくそ笑んだが、警察にあえなく逮捕された。
しかしその時には住民たちの信頼は失われ、ドローン宅配サービスは廃止されることになった。
住民たちは再び昔ながらの郵便配達に戻り、その手渡しの温かさを再発見した。
ある日、田中さんは郵便配達員からようやく受け取った花瓶を見つめ、微笑んだ。
「やっぱり、人の手にはかなわないな」とつぶやいた。
山田さんの家では、子供たちが誕生日ケーキを囲み、にぎやかな声が響いていた。
技術の進歩がもたらした便利さの影で、住民たちは再び小さな幸せを見つけ出したのだった。
最先端の技術に頼る生活から、一歩引いて見つめ直すきっかけとなったのである。