人工知能の選挙【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
田中涼太は給料日前の窮状に喘ぎながら、フリマアプリ「お宝市場」を眺めていた。
「会社 売ります」という奇妙な出品が目に留まる。
涼太は「これで俺も社長か!」と冗談半分で購入ボタンを押してしまった。
翌日、「会社を購入いただきありがとうございます」とのメッセージに驚き、指定されたカフェへ向かうと、出品者の鈴木一郎が待っていた。
「ようこそ、新しい会社の社長さん」と一郎は笑顔で迎えた。
案内された先は、小さな部屋と古びた机だけだった。
涼太は思わず声を上げた。
「これが会社?」
一郎は微笑んで答えた。
「ここからが君の腕の見せ所だよ」
半信半疑の涼太は、仕方なく事業を立ち上げる決意を固めた。
数ヶ月後、涼太は四苦八苦しながらも事業を拡大していた。
しかしある日、一郎が涼太に告げた。
「実はこの会社、私の趣味で作った架空のものなんだ」
涼太は一瞬凍りついたが、次の瞬間には大笑いしてしまった。
「なんだ、それも面白いじゃないか!」
その日、涼太は新たな夢を胸に、前向きに歩み出した。
「架空の会社でも、俺の借金だけはリアルだからな」