無料の美学【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
斉藤は健康診断で高血圧を指摘され、医者に「健康的な生活を」と言われた。
仕方なく毎日ジョギングを始めたが、ある日なんと交通事故に遭ってしまい、病院送りに。
医者が病室に入ってきて「斉藤さん、運動もほどほどにね」と言った時、斉藤は苦笑いしながら「先生、それもっと早く言ってくださいよ」と返した。
退院後、斉藤はまたジョギングを始めたが、今度は安全第一。
その夜、友人たちと飲みに行った斉藤は、バーで一杯飲みながら冗談を言った。
「お医者さんに言われたんだよ、運動はほどほどにってさ」
友人たちが笑う中、斉藤はふと隣の男に気づいた。
なんと、あの事故を起こした運転手だった。
運転手は苦笑いしながら「俺も医者に言われたよ。飲みすぎもほどほどにってさ」
斉藤は驚きを隠せなかったが、次の瞬間、二人は笑い出した。
「人生も運動も飲酒も、何事もバランスだな」と斉藤が言うと、運転手が返した。
「でも、俺たちのバランス感覚がこれじゃあな」
斉藤はその時、健康も笑いも、すべてがほどほどであることの大切さを改めて実感した。
そして、運転手が一言。
「次は、ほどほどに死なないようにな」