AIの盲点【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
鈴木裕樹は、不思議な古本屋で偶然「逆転世界の鏡」という奇妙な鏡を見つけた。
好奇心に駆られて購入し、自宅で試してみることにした。
「どうせ、ただの古い鏡だろう」と軽く見て触れると、突然、周囲の風景が歪み始めた。
目を開けると、そこは全く逆の世界だった。
昼が夜に、善が悪に、左が右に変わっていた。
警察が犯罪者を保護し、慈善団体が人々から奪うなんて、なんとも滑稽な光景だ。
「なんだこの世界、面白いじゃないか!」と裕樹はその逆転世界を楽しんだ。
しかし、次第に現実と逆転世界の区別がつかなくなり、彼の心は混乱していった。
現実での決断が逆転世界に影響し、その逆もまた然りだった。
「どっちが本物の世界なんだ?」
裕樹は鏡を壊すことを決意する。
鏡が割れると、全てが元に戻ったかのように見えたが、街中にはまだ逆転世界の名残が残っていた。
人々の行動が微妙に反転しているのだ。
「現実が逆転したのか、それとも俺が変わったのか…」
裕樹は苦笑しながら鏡の破片を見つめた。
その破片に映る自分の顔は、不敵な笑みを浮かべていた。
そして、彼は肩をすくめて呟いた。
「本物の自分がどっちかなんて、もうどうでもいいか」