笑顔の盾【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
田中は長年務めた会社を辞め、夢だった起業に挑んだ。
しかし、初めてのプレゼンで緊張のあまり言葉が出ず、大失敗。
起業はあっという間に頓挫し、田中は再び転職活動を始めた。
「次こそは」と意気込んで受けた面接は連敗続き。
「あなたの経験は評価しますが、今回は見送りです」と断られるたびに、田中の心は少しずつ削られていった。
ある日、面接官に「また来週、面接練習に来ますか?」と皮肉を言われ、田中の自尊心は完全に崩壊した。
もうどこでもいい、何でもいい。
田中は自暴自棄になり、転職エージェントに「どこでもいいから仕事を」と頼み込んだ。
数日後、エージェントから連絡があり、紹介された職場へ向かう。
ドアを開けると、そこは見覚えのあるオフィスだった。
吉田がドアを開け、田中に冷たい笑みを浮かべた。
「お帰り」
その一言に、田中の心は再び砕けた。
しかし、田中は何も言わず、静かに頭を下げた。
吉田はにやりと笑って続けた。
「また失敗したら、いつでも戻っておいで」