欲望の花【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
篠原龍一は「ドリームキャスター」を発表した。
これは人々が自分の理想の世界を体験できる夢をリアルタイムで映像化する装置だ。
現実の失敗や挫折から逃れ、龍一もその一人だった。
夢の中で完璧な自分を見つけ、現実を忘れる日々。
「龍一、これ以上使い続けるのは危険よ。夢と現実の区別がつかなくなるわ」
幼馴染の神田麻里子が真剣な顔で訴えるが、彼は虚ろな目で笑う。
「麻里子、現実は残酷すぎる。夢の中ではすべてが理想通りなんだ」
だが、夢と現実が交錯し始め、龍一の混乱は極まる。
重大な事故に巻き込まれ、麻里子の助けを借りて、ようやく夢の世界から戻る決意をする。
「現実に戻ろう、龍一」
麻里子の言葉に、彼は初めて真剣な眼差しを向けた。
過去の痛みと向き合い、成長することを決意した彼は、夢の誘惑を振り切り、新たな一歩を踏み出した。
しかし、目を開けた瞬間、目の前に映し出されたのは、また別の夢だった。
「ようこそ、現実の中の夢へ」
機械の声が冷たく響いた。
彼の現実は、永遠に終わらない夢の中だった。