消えた月【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
晴れた春の午後、公園のベンチに座ったミカは、目を閉じて鳥のさえずりに耳を傾けていた。
桜の花びらが舞い、子供たちの笑い声が心地よく響く。
「ねえ、おばあちゃん、何してるの?」
小さな男の子が興味深げに尋ねた。
「昔話を思い出してるのよ」とミカは微笑んだ。
彼女の目は優しく、遠い記憶をたどっていた。
「どんな話?」
「ここで友達と宝探しをしたの。あの大きな桜の木の下に、宝物を埋めたのよ。でも見つけられなかったの」
「僕も探してみたい!」
ミカは男の子の手を取り、立ち上がった。
「じゃあ、一緒に行ってみましょうか?」
二人は桜の木の下に向かい、小さなスコップで地面を掘り始めた。
男の子のスコップが何か硬いものに当たった。
「おばあちゃん、見つけた!」
それは小さな錆びた缶で、中には色あせた手紙と古いコインが入っていた。
ミカの目に涙が浮かぶ。
「これが宝物よ。君もいつか素敵な冒険を見つけられるわ」
男の子は笑顔で頷いた。
「そうだね。僕もいつか、こんな冒険をしたいな」
ミカは桜の花びらが舞う空を見上げた。
「未来は君たちの手にあるのよ。大切にね」