永遠の幸福【掌編小説】
美咲(ミサキ)は、普通の日々に満足できない女性だった。
彼女は常に「永遠の幸福」を追い求めていた。
ある日、彼女の元に謎の人物が現れ、「永遠の幸福」を約束する契約書を差し出した。
美咲は躊躇することなくその契約に署名した。
契約書に署名してから、美咲の人生は一変した。
彼女には思いもよらない幸運が舞い込み、毎日が楽しく、充実していた。
彼女はこれこそが自分が求めていた「永遠の幸福」だと確信していた。
しかし、次第に周囲の人々が不幸に見舞われ始めた。
親しい友人が病気に倒れたり、職場の同僚が突然解雇されたりと、不幸な出来事が連続して起こるようになった。
美咲はこれらの出来事と自分の幸福が関連しているとは考えもしなかった。
ある日、美咲は契約書を再び手に取った。
そして、契約書の小さな文字を読んで愕然とした。
契約書には、「あなたの幸福は、周囲の人々の不幸から生まれる」と書かれていたのだ。
美咲は罪悪感に苛まれた。
彼女は自分の幸せが他人の不幸の上に成り立っていることを知り、深い悲しみに暮れた。
彼女は契約の取り消しを試みたが、すでに遅かった。
契約書にはもう一つの条項があった。
「この契約を破棄すると、あなたは永遠に幸福感を感じる能力を失う」と。
美咲は絶望的な選択を迫られた。
他人の不幸を背負って生きるか、それとも自分の幸福感を永遠に失うか。
彼女は後者を選び、契約を破棄した。
契約破棄の瞬間、美咲の心は何か大切なものを失ったような虚無感に包まれた。
以降、彼女はどんなに素晴らしいことがあっても、幸せを感じることはできなくなった。
美咲の周囲では不幸な出来事が減少し、彼女は他人を助け、支えることに人生を捧げた。
しかし、彼女自身の心は、永遠の虚無感に包まれたままだった。
「永遠の幸福」という名の契約は、幸福の本質と代償について、深い問いを投げかけるものとなった。