最後の願い:永遠の命を求めた男【掌編小説】
山間の小さな村に、病に侵された老人がいた。
名を浩二(コウジ)という。
彼の人生は、苦労と試練の連続であったが、愛する家族に囲まれて幸せなものでもあった。
しかし、病は彼から時間を奪い、死が近づいていることを告げていた。
ある日、彼は庭を散歩中に奇妙な輝きに目を奪われる。
近づいてみると、それは古びたランプだった。
浩二は何気なくそれを拾い上げ、拭いた瞬間、ランプからは煙が立ち上り、そして煙が形を変えて一人の精霊が現れた。
「お前様の望みを一つだけ叶えよう」と精霊は言った。
浩二は迷わずに「永遠の命を」と願った。
老いも病も恐れず、愛する家族と永遠に生きることができれば、それ以上の幸せはないと彼は考えたのだ。
精霊は一瞬の静寂の後、「願いは叶えられた」と告げ、ランプと共に消え去った。
瞬く間に、浩二の体は変化し始めた。
彼の皮膚は緑がかった硬い甲羅に覆われ、手足は短く変形し、彼はカメになってしまったのだ。
家族が彼を見つけた時、彼らは驚きと混乱に陥った。
しかし、彼らはすぐに高価なカメの置物として彼を受け入れた。
彼の変化した姿を知る者は誰もいないため、家族は彼が本当に願った永遠の命を理解することはなかった。
彼らは、この珍しいカメを家族の宝として大切に飾り、その美しさを讃えた。
浩二は、自分が願った永遠の命を手に入れたことを知りつつも、愛する家族の笑顔を見ることができず、彼らの声を聞くこともできなくなった。
日々は過ぎ、季節は変わり、家族は彼の真実を知ることなく生きていった。
浩二は、家族のそばで静かに時を過ごすカメとして、彼らを見守り続けた。
彼の願いは文字通りに叶えられたが、その結果は彼が想像していたものとは全く異なっていた。
永遠の命を得た浩二は、家族との絆の深さと、人生の意味を新たな形で理解することとなった。
しかし、その理解は彼がカメとしての新しい生を送る中でのみ得られるものであった。
そして、彼の物語は、愛と失望、そして予期せぬ結末の物語として、村の奇妙な伝説となったのである。