禁断の書と真実の鍵【掌編小説】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
朝日がそっと部屋に忍び込む。
カーテンの隙間から漏れる光が、埃まみれの古い手紙を照らし出した。
大学生の俊は、父・康平の書斎で偶然にもその手紙を発見する。
彼は、父との間に長年温めてきた誤解の原因を探るため、手紙を開封した。
手紙には、父の筆跡で「俺の息子へ」と記されていた。
中身は、俊がまだ幼かった頃、康平が仕事で忙しく家を空けがちだったことへの謝罪と、息子への愛情が綴られていた。
しかし、俊はこの手紙を見たことがなかった。
「どうして、これを渡さなかったんだ…」俊は疑問と怒りに満ちたまま、康平との対面を決意する。
彼らの対決の場は、街角の古びたカフェだった。
康平は、かつての栄光を失い、頑固に過去を振り返る日々を送っていた。
対照的に、俊は将来への希望に満ちていた。
「なぜ、この手紙を隠していたんだ?」
俊が問うと、康平は驚愕の表情を浮かべた。
「その手紙は…」
その時、不慮の事故で、彼らのテーブルにコーヒーがぶちまけられた。
ウェイターは慌てふためき、康平は怒りを爆発させた。
しかし、そんな状況が、二人の間の緊張を和らげた。
康平は笑いながら、「本当に、お前はお母さんに似たな…」と言った。
俊も笑い、初めて父の温かさを感じた。
康平は語った。
手紙は俊に渡すつもりだったが、仕事の忙しさと家族への気兼ねから、うっかり失くしてしまったと。
「お前が成長した姿を見るたびに、手紙のことを思い出して後悔してたんだ」
俊は父の言葉に心を打たれ、長年の誤解が解けたことを感じた。
間の悪いトラブルが父子の間の壁を崩し、新しい理解と寛容への道を開いたのだった。