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怪談は、いつから夏のものになったのか?江戸の芝居小屋から始まった「夏=幽霊」の意外な歴史

佐藤直哉(Naoya sato-)
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はじめに

昔の幽霊は、夏に出勤していなかった

「怪談といえば夏でしょ」

たしかに今はそうです。

でも江戸時代の前半ごろまで、怪談は春の雨の日や、秋の長い夜にも語られていました。

つまり、

昔から「夏=怪談」だったわけではありません。

幽霊にも、まだ繁忙期はなかったのです。

ではいつから、

僕たちは8月になると幽霊を欲しがるようになったのでしょうか?

その答えの一つが、

江戸の芝居小屋にあります。

※本記事は筆者個人の感想をもとにエンターテインメント目的で制作されています。

夏の芝居小屋は、ちょっと困っていた

真夏の江戸。

芝居小屋の人が頭を抱えます。

「暑いな……」

「人気役者もいないな……」

「客、来るかな……」

夏の芝居は「土用芝居」「盆狂言」などと呼ばれ、人気俳優が地方へ出ることもありました。

そこで必要になります。

役者の人気がなくても客を呼べるもの。

派手な仕掛け。

幽霊。

怪物。

水を使った演出。

夏の芝居小屋に、

怪談が入り込む余地ができました。

そして、ここに一人の劇作家が現れます。

71歳の男が、江戸を怖がらせた

1825年。

中村座。

観客の前に現れたのは、

顔の崩れた女性。

お岩さんです。

戸板を返せば死体。

提灯からも顔。

役者は一瞬で姿を変える。

「うわっ!」

客席は大騒ぎです。

これが四代目鶴屋南北の

『東海道四谷怪談』

南北、このとき71歳。

しかも公演は大当たりし、約50日続きました。

夏の怪談が、

完全に「売れるコンテンツ」になったわけです。

でも、夏との相性が良かった理由は芝居だけではありません。

夏には、死者が帰ってくる

夏の夕方。

家の前で火を焚きます。

子どもが聞きます。

「何してるの?」

「ご先祖様が帰ってくる目印だよ」

お盆の迎え火です。

よく考えると、

かなり不思議な行事です。

年に一度、死者がこちらへ帰ってくる。

そんな季節に、

芝居小屋では幽霊が出る。

夜には怪談をする。

夏と怪談が結びつくには、

かなり都合のいい環境がそろっていました。

そして江戸では、

さらに怖い遊びまで流行ります。

百物語は、照明まで怖い

部屋に灯りが百個。

「じゃあ、一話目」

怪談を話す。

灯りを一つ消す。

二話目。

また消す。

三話目。

また暗くなる。

話が進むほど、

部屋まで怖くなっていきます。

これが百物語。

最後の灯りを消すと、

本当に怪異が起こるとも恐れられていました。

現代なら、

話が進むほど画面が暗くなるホラーゲームのようなものです。

江戸の人、

演出がかなり分かっています。

ところで、

ここで一つ気になります。

怖いと、本当に涼しくなるのでしょうか?

ホラーを見ると、顔は少し冷える

真夏の夜。

ホラー映画を見ていた男性が叫びます。

「うわっ!」

腕を見る。

鳥肌。

「……ちょっと涼しくなった気がする」

完全な気のせいとも言い切れません。

恐怖を感じると交感神経が働き、皮膚の血流などが変化します。

実験では、

ホラー映像を見たあとに顔の表面温度が下がった例もあります。

ただし、

体全体が冷えるわけではありません。

怪談は、

残念ながらエアコンの代わりにはなりません。

では、なぜ「怪談=涼しい」がここまで定着したのでしょうか?

「涼しいから怪談」は、順番が逆かもしれない

江戸の芝居小屋。

怪談をやった。

客が来た。

翌年もやった。

また客が来た。

お盆にも合う。

百物語も楽しい。

そのうち誰かが言います。

「夏はやっぱり怪談だよな」

そして後から、

「怖いとゾッとして涼しいし」

という説明までついてきます。

つまり、

涼むために怪談が始まったというより、

夏の怪談文化が先に育ち、「涼しい」という説明があとからきれいにハマった

と考えたほうが自然です。

幽霊は、最初から夏のものではなかったのです。

最後に

夏の夜。

誰かが言います。

「怖い話でもする?」

たぶん僕たちは、

その言葉を聞いても不思議には思いません。

怪談は夏。

いつの間にか、

それが当たり前になりました。

最初から決まっていたわけではありません。

何度も語られ、

何度も芝居になり、

何度も夏に呼び出されるうちに、

すっかり定着しただけです。

そして今年も、

暑くなると幽霊の出番が増えます。

生きている人間は夏休み。

死んでいるほうは繁忙期です。

ABOUT ME
佐藤直哉(Naoya sato-)
佐藤直哉(Naoya sato-)
ブロガー/小説家
文章を書くことを楽しむ自称・小説家です。
歴史や文化、日々の暮らしに潜む雑学を題材に、無駄雑学などの小噺を発信しています。
どうぞ、ふらりと覗いてみてください。
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