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日が沈んだのに、なぜ山頂だけ赤い?──マッターホルンで起きる「アルペングロー」

佐藤直哉(Naoya sato-)
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はじめに

「あれ?山の頂上だけ光ってない?」

夕方。

スイスの町、ツェルマット。

一人の観光客が、マッターホルンを眺めていました。

「そろそろ戻るか」

空はもう暗くなり始めています。

町にも、少しずつ夜が近づいていました。

男が最後にもう一度だけ山を見ます。

「……ん?」

足が止まりました。

マッターホルンの山頂だけが、

赤く光っています。

山の下は暗い。

周りの景色も、もう薄暗い。

なのに、

てっぺんだけが真っ赤です。

「……なんだ、あれ」

男は空を見上げます。

太陽はもう見えません。

もう一度、山を見る。

それでも、

山頂だけは赤く光っています。

「太陽、もう沈んでるよな……?」

男はその場で、

しばらく山を見上げていました。

この不思議な光景こそ、

「アルペングロー」と呼ばれる現象です。

※本記事は筆者個人の感想をもとにエンターテインメント目的で制作されています。

「太陽は沈んだ。でも山頂からは沈んでいない」

男はもう一度、西の空を見ます。

太陽は、やはり見えません。

「じゃあ、あの赤い光はどこから来てるんだ?」

答えは、

太陽です。

少し変な話ですが、

太陽そのものが消えたわけではありません。

男がいる町から、

見えなくなっただけです。

たとえば、

地上では夕日が見えなくなっていても、

高い場所では、

もう少しだけ太陽が見えることがあります。

マッターホルンの標高は、

約4478メートル。

町がすでに暗くなっていても、

高い山頂には、

まだ太陽の光が届きます。

だから、

山の下は暗いのに、

てっぺんだけが明るく残る。

しかも夕方の太陽は、

昼間より赤やオレンジ色が目立ちます。

太陽の光が、

長い距離の大気を通ってくるからです。

その赤い光が、

最後まで残っている山頂に当たる。

すると、

薄暗くなった景色の中で、

マッターホルンのてっぺんだけが、

赤く浮かび上がります。

ところが、

この赤い光も、

やがて山頂から消えていきます。

「今度は、影が山を登ってくる」

しばらくすると、

男は山頂を見たまま、

少し眉をひそめました。

「……あれ?」

さっきまで赤く光っていた部分が、

少し小さくなっています。

山頂を照らしていた光が、

下の方からじわじわ消えているのです。

雲がかかったわけではありません。

今度は、

地球の影が山を覆い始めています。

夕方になると、

低い場所から先に太陽の光が届かなくなります。

高い場所には、

まだ少しだけ光が残る。

でも、

太陽がさらに低くなると、

その光も届かなくなっていきます。

すると、

山の下から上へ向かって、

暗い部分が少しずつ広がって見えます。

まるで、

影が山を登っているようです。

そして最後には、

マッターホルンの山頂も影の中へ入ります。

さっきまで赤く光っていた山が、

すっと暗くなる。

「……消えた」

数分前まであれだけ目立っていた光は、

最後になると、

驚くほどあっさり消えてしまいます。

最後に

アルペングローの正体は、

もう分かっています。

太陽の光が大気を通り、

高い山頂だけを最後に赤く照らす。

科学的には、

それで説明できます。

でも、

花火の仕組みを知ったからといって、

花火大会へ行かなくなる人はあまりいません。

好きな曲の仕組みを知ったからといって、

ライブを見る意味がなくなるわけでもありません。

アルペングローも、

たぶん同じです。

「なぜ赤くなるのか?」

は説明できます。

でも、

実際に目の前で、

暗くなった町の上に、

マッターホルンの山頂だけが赤く浮かび上がる。

その景色を見たときに、

自分が何を感じるかまでは、

誰かの説明では分かりません。

だから人は、

写真で見たことがあっても、

仕組みを知っていても、

わざわざそこまで見に行きます。

人類はずいぶん賢くなって、

自然現象の理由をいくつも説明できるようになりました。

それでも結局、

答えを知ったあとに、わざわざ見に行ってしまいます。

どうやら僕たちは、

「分かった」だけでは、なかなか満足できない生き物のようです。

ABOUT ME
佐藤直哉(Naoya sato-)
佐藤直哉(Naoya sato-)
ブロガー/小説家
文章を書くことを楽しむ自称・小説家です。
歴史や文化、日々の暮らしに潜む雑学を題材に、無駄雑学などの小噺を発信しています。
どうぞ、ふらりと覗いてみてください。
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