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空き部屋から聞こえる「笑い声」の正体

佐藤直哉(Naoya sato-)
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はじめに

夜。

ベッドに入ってしばらくすると、壁の向こうから声がしました。

「ハハハ……」

思わず目を開けます。

「……今、笑った?」

テレビの音でしょうか?

それにしては、妙に近く聞こえます。

しばらく耳を澄ませていると、もう一度。

「フフッ……」

翌朝、廊下で管理人を見つけました。

「すみません。隣の部屋って、誰が住んでるんですか?」

すると、少し不思議そうな顔をされます。

「隣ですか?」

「はい。昨夜、笑い声がして」

管理人は鍵の束を見ながら答えます。

「そこ、今は空室ですよ」

昨日までなら、ただの生活音で終わっていた話です。

ところが、

「誰も住んでいない」

と分かった瞬間、笑い声の意味が変わります。

「じゃあ、昨日笑っていたのは誰?」

そんなふうに考えてしまいますよね。

でも、この話には幽霊より先に調べておきたいものがあります。

それが、建物の中を動き回る音です。

※本記事は筆者個人の感想をもとにエンターテインメント目的で制作されています。

「確かに隣から聞こえた」は、本当に隣なのか?

その夜も、また聞こえてきました。

「ハハハ……」

男は壁に近づきます。

「やっぱり隣だ」

少し離れてみる。

もう一度、壁に耳を近づける。

「いや、絶対ここから聞こえてる」

翌日、管理人にもう一度確認しました。

「本当に誰も入ってないんですよね?」

「入ってませんよ」

「でも、声がするんです」

すると管理人は天井を見上げます。

「上の階じゃないですか?」

「いや、隣から聞こえましたよ」

こう言いたくなる気持ちはよく分かります。

耳では、確かにその方向から聞こえているのですから。

ただ、集合住宅の音は、僕たちが思っているほどまっすぐには進みません。

たとえば上の階で誰かがテレビを見ながら笑っていたとします。

その声が床を振動させ、壁へ伝わり、さらに建物の骨組みを通って別の場所まで届くことがあります。

配管や換気ダクトが、音の通り道になる場合もあります。

つまり、

「この壁から聞こえた」

という感覚があっても、

「この壁の向こうで誰かが笑っていた」

とは限らないんですね。

音が最後に出てきた場所と、最初に生まれた場所は別かもしれません。

そう考えると、空き部屋の見え方も少し変わってきます。

誰も住んでいない。
テレビもない。
会話する人もいない。

それでも建物のどこかで生まれた音だけが回り込んできて、

「ハハハ……」

と壁の向こうから聞こえてくる。

幽霊が声を飛ばしていたというより、

建物そのものが腹話術をしていた

と考えた方が近いのかもしれません。

空き部屋は、音を少し奇妙にする

別の日。

管理人と一緒に、その空き部屋へ入ってみます。

「ほら。誰もいないでしょう?」

家具もカーテンもなく、部屋はがらんとしています。

管理人が壁を軽く叩くと、

「コン、コン」

と音が広がりました。

「ずいぶん響きますね」

「物が何もないですからね」

普段の部屋には、カーテンや布団、ソファなど、音を吸ってくれるものがあります。

空き部屋には、それがほとんどありません。

だから外から入り込んだ音が反射して、元とは少し違った聞こえ方をすることがあります。

遠くのテレビから聞こえた、

「ハハハハ!」

という笑い声が、

「……ハハ……」

と途切れて届けば、知らずに聞いた人は少し気味が悪いでしょう。

しかも、その先は誰も住んでいない部屋です。

「空き部屋だから静か」

とは限らないんですね。

何もないからこそ、迷い込んできた音が妙にはっきり聞こえることもあります。

科学者が本当に「幽霊部屋」を作った

ここで、少し面白い実験があります。

参加者が、ある特殊な部屋へ案内されます。

「この部屋では、変わった感覚を覚える人がいます」

「変わった感覚?」

「誰かの気配を感じる人もいるようです」

そんな説明を聞けば、少し気になりますよね。

2009年、イギリスの心理学者クリストファー・フレンチ氏らは、超低周波音や電磁場を使った部屋で、人がどんな体験をするのか調べました。

すると参加者から、

「何かいる感じがした」

「妙な感覚があった」

という報告が出てきます。

ところが、それらは研究者が加えた特殊な刺激とは、きれいに一致しませんでした。

そこで浮かんだのが、

「何か起こるかもしれない」

という期待の影響です。

空き部屋の笑い声も似ています。

最初なら、

「テレビかな?」

で済んだ音でも、

「そこ、空室ですよ」

と聞いたあとでは、

「……また聞こえた」

と気になってしまう。

音が変わったのではなく、その音の受け取り方が変わったわけです。

誰もいない部屋へ最初に入り込んだのは、幽霊ではなく、

こちらの想像だったのかもしれません。

最後に

数日後、管理人が教えてくれました。

「あの笑い声、上の階のテレビだったみたいですよ」

「やっぱり幽霊じゃなかったんですね」

これで一件落着です。

その夜。

また壁の向こうから、

「ハハハ……」

男は気にせず目を閉じます。

「上の階だな」

すると今度は、反対側から、

「フフッ……」

男は少しだけ目を開けます。

「……そっちからも来るの?」

正体が分かれば、笑い声はただの音に戻ります。

ただし一度怪談になった部屋から、

想像力まで退去させるのは、もう少し時間がかかるようです。

ABOUT ME
佐藤直哉(Naoya sato-)
佐藤直哉(Naoya sato-)
ブロガー/小説家
文章を書くことを楽しむ自称・小説家です。
歴史や文化、日々の暮らしに潜む雑学を題材に、無駄雑学などの小噺を発信しています。
どうぞ、ふらりと覗いてみてください。
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