セントエルモの火とは?――嵐の夜、マストの先に現れる青白い光
はじめに

嵐の夜、船のマストが燃えました。
雨が甲板を叩いています。
風で帆が大きく揺れています。
その上。
マストの先だけが、
青白く光っていました。
船員が見上げます。
「……火事じゃないのか?」
ですが、
煙は出ていません。
木も焦げていません。
雨が降っているのに、
光も消えません。
それどころか、
昔の船乗りたちは、
この光を見て安心することさえありました。
火事のように見えるものを見て、
「これなら助かる」
と考えたのです。
もちろん、
マストが燃えていたわけではありません。
では、
雨の中で青白く光っていたものは、
いったい何だったのでしょうか?
この奇妙な現象は、
「セントエルモの火」
と呼ばれています。
※本記事は筆者個人の感想をもとに制作されているため、正確ではない情報の可能性があります。
火ではなく、空気が光っている

セントエルモの火は、
名前に「火」と付いています。
ですが、
木や油が燃える炎とは別物です。
正体は、
強い電場によって起こるコロナ放電です。
雷雲などが近づくと、
周囲には強い電場ができます。
その影響が、
マストや避雷針のような尖った場所に集中すると、
周囲の空気が電離します。
すると、
空気中の分子が光を出します。
これが、
セントエルモの火です。
光っているのは、
マストそのものではありません。
マストの周りにある空気なのです。
なぜ、いつも先端が光るのか?

セントエルモの火には、
現れやすい場所があります。
それが、
尖った場所です。
船なら、
マストの先。
建物なら、
避雷針。
飛行機なら、
機首や翼端。
電場は、
尖った場所ほど強くなります。
そのため、
周囲の空気も放電しやすくなります。
昔の帆船でマストの先が光ったのには、
きちんと理由がありました。
船の中でも、
そこが特に電気の影響を受けやすい場所だったのです。
夜の海で、
頭上のマストだけが青白く光れば、
かなり異様に見えたでしょう。
青や紫に見えるのはなぜか?

セントエルモの火は、
青白い光として知られています。
ただし、
青紫色や、
緑がかった色に見えることもあります。
これは、
空気に含まれる窒素や酸素などが、
電気によって刺激され、
光を出すためです。
光り方も一定ではありません。
ぼんやりと光ることもあれば、
細い光が伸びたり、
小さな火花のように見えたりすることもあります。
暗い海の上なら、
なおさら炎のように見えます。
ですが、
そこに燃えている燃料はありません。
煙も出ません。
マストが焦げるわけでもありません。
見えているのは、
燃焼ではなく放電の光です。
雷と何が違うのか?

セントエルモの火も、
雷も、
電気によって起こる現象です。
ただし、
同じものではありません。
雷は、
大量の電荷が一気に移動する大規模な放電です。
一方、
セントエルモの火は、
尖った物体の周囲で起こる
比較的局所的なコロナ放電です。
光り方も違います。
雷なら、
一瞬で空を横切ります。
セントエルモの火は、
物体の先端付近で光り続けることがあります。
ただし、
セントエルモの火が現れるほど電場が強くなっているなら、
周囲は安全とは言えません。
特に雷雲の近くでは、
光そのものより、
その環境の方を警戒する必要があります。
昔の船乗りには、聖人の光に見えた

今なら、
この現象を電気で説明できます。
ですが、
昔の船乗りにはその知識がありません。
真夜中の海。
強い風。
激しい雨。
その中で、
突然マストの先に青白い光が現れます。
しかも、
雨でも消えません。
何も知らずに見れば、
普通の火とは思えないでしょう。
ヨーロッパの船乗りたちは、
この光を航海の守護聖人と結びつけました。
そこから、
「セントエルモの火」
という名前が残りました。
さらに古い時代には、
同じような光を、
双子の神カストルとポルックスに結びつけた記録もあります。
中国の航海記録でも、
マストに現れた光が、
神聖な灯火として受け取られています。
同じ現象を見ても、
その説明は時代や文化によって変わっていました。
2000年前にも「燃える槍」が記録された

セントエルモの火に似た記録は、
古代までさかのぼります。
『アフリカ戦記』には、
暴風雨の夜、
兵士たちが持つ槍の穂先が
自然に燃えた
という記述があります。
激しい雨のため、
軍営の火は消えていました。
それなのに、
兵士の槍の先だけが光っていました。
現代の知識で考えると、
強い電場の中で、
尖った金属部分にコロナ放電が起きたと説明できます。
当時の兵士たちが見たのは、
雨の中で光る槍です。
原因が分からなければ、
不気味に見えて当然だったでしょう。
最後に

飛行機でも現れる
セントエルモの火は、
昔の帆船だけに現れた現象ではありません。
現代の航空機でも、
条件がそろえば見ることができます。
雷雲の近くなどで電場が強くなると、
機首や翼端のまわりが、
青紫色に光ることがあります。
見た目は、
昔の船乗りがマストの先で見た光とよく似ています。
違うのは、
海の上ではなく、
空の上で起きていることです。
飛行機になっても、
尖った部分の周囲で空気が発光する仕組みは変わりません。
帆船の時代には、
正体の分からない光として見られていました。
今では、
その仕組みまで説明できます。
けれど、
夜の空で翼の先が青く光る光景を見れば、
原因が分かっていても、どこか不思議なものに見えてしまいます。

