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神の怒りか、地球の仕業か?アルジェリアの“呪われた温泉”の正体

佐藤直哉(Naoya sato-)
<景品表示法に基づく表記>当サイトのコンテンツ内には商品プロモーションを含みます。

はじめに

アルジェリア北東部に、名前からして近づきにくい温泉があります。

ハマム・マスホウティン。

日本語にすると、「呪われた者たちの温泉」です。

「ずいぶん大げさな名前だな」

そう思って現地を見ると、地面からは96℃を超える熱水が湧き、その周囲には人間のような白い岩が並んでいます。

背の高い岩の隣には、小さな岩。
その後ろにも、何人もの人が集まっているような岩。

昔の人々は、その光景を見て言いました。

「これは岩ではない。神に罰せられた人間だ」

伝説によれば、ある男が周囲の反対を押し切って妹と結婚しようとしたため、結婚式に集まった全員が石に変えられたといいます。

白い岩は、新郎新婦と参列者。
足元から噴き出す熱水は、今も消えない神の怒り。

そんな土地へ、後に古代ローマ人がやって来ました。

人間のような岩を見ます。
沸騰寸前の水を見ます。

そして考えました。

「これだけ熱い水があるなら、浴場を造れるな」

地元の人々が神罰の跡を見た場所で、ローマ人は風呂のことを考えていたのです。

※本記事は筆者個人の感想をもとにエンターテインメント目的で制作されています。

結婚式の最中に石になった

この温泉地には、ある結婚式の伝説が残されています。

昔、この土地に、自分の妹と結婚しようとした男がいました。

「その結婚は許されない」

村の年長者や宗教者は、何度も男を止めました。

「神の怒りに触れるぞ」

それでも男は考えを変えません。

「誰に何を言われても、式は挙げる」

やがて結婚式の日が訪れました。
新郎新婦の周りには、多くの参列者が集まります。

そして式が始まった、その瞬間。

新郎も、新婦も、そこにいた人々も、全員が石に変えられたと伝えられています。

現在の温泉地には、背の高い岩や小さな岩が、まとまって並んでいます。

白い蒸気の中に浮かぶ姿は、結婚式の途中で動きを止めた人々のようにも見えます。

「あれが新郎と新婦だ」

「周りの岩は、参列者たちだ」

昔の人々は、そう語りました。
人のような岩の足元からは、触れられないほど熱い水が湧き続けています。

この風景を前にすれば、神の罰という物語が生まれた理由も分かります。

ローマ人は浴場を造った

古代ローマ時代、この一帯はアクアエ・ティビリタナエと呼ばれていました。

人の姿に見える白い岩が並び、その足元からは熱水が噴き出しています。

地元の人々は、その光景を恐れました。

「あの岩は、神に罰せられた人々だ」

ところが、そこへやって来たローマ人の目に留まったのは、岩ではなく熱水でした。

「この湯、かなり熱いぞ」

「薪を燃やす必要がないな」

ローマ人の浴場では、炉に薪をくべ、水や建物を温めていました。
広い浴場を維持するには、大量の燃料と、それを運ぶ人手が必要です。

しかし、ここで湧く水は96℃から98℃ほど。

温めるどころか、そのままでは熱すぎて入れません。

「では、冷たい水を混ぜよう」

「水路を通せば、少し冷めるだろう」

実際にどのような方法で温度を調整したのかは分かっていません。
それでも、この土地に温泉施設が築かれていたのは間違いないようです。

「神の怒りが残る場所だ。近づいてはいけない」

そう恐れられた土地を見て、ローマ人は考えました。

「これだけ湯があるなら、浴場を造ろう」

人々を遠ざけたはずの熱水が、ローマ人を呼び寄せることになったのです。

人間に見える岩の正体

「本当に、人が石になったのか?」

もちろん、そうではありません。

白い岩の正体は、トラバーチンと呼ばれる石灰質の堆積物です。

温泉水には、地下の岩盤から溶け出したカルシウムなどが含まれています。

その水が地表へ出ると、二酸化炭素が抜け、炭酸カルシウムが固まって残ります。

「それで、こんな大きな岩になるのか?」

一度で完成するわけではありません。

水が流れる。
薄い層が残る。
その上をまた水が流れる。

この繰り返しが、何百年、何千年と続きます。

やがて、段差や塔のような形ができあがります。

水の流れが変われば、岩が育つ場所も変わります。

「では、この岩はもう完成しているのか?」

いいえ。

温泉水が流れ続けるかぎり、奇岩群は今も少しずつ姿を変えています。

昔の人々が人間の姿を見つけた岩も、最初から同じ形だったわけではありません。

長い時間をかけて育った岩に、人々が新郎新婦と参列者の姿を重ねたのです。

温泉なのに、そのまま入れない

ハマム・マスホウティンから湧き出す水は、場所によって96℃から98℃ほどに達します。

「温泉なら、少しくらい熱くても入れるだろう」

そう思って足を入れれば、大やけどです。

家庭で沸かした湯が、およそ100℃で沸騰します。

ここで流れているのは、温泉という名前の熱湯でした。

「誰がこんなに熱くしているんだ?」

火を焚いている人はいません。

雨や地下水が地面の割れ目から地下深くへ入り、高温の岩盤に温められます。

熱くなった水は地下の圧力に押され、再び地表へ戻ってきます。

「では、地下に巨大な風呂釜があるのか?」

もちろん、釜はありません。

地球そのものが、風呂釜の役目をしているのです。

普通の温泉では、湯が冷めないように苦労します。

しかし、ここでは事情が逆でした。

「熱すぎて入れないぞ」

「では、先に冷まそう」

温泉へ来たのに、最初にすることは湯を冷ますこと。

ハマム・マスホウティンでは、地球のサービスが少し効きすぎているのです。

近づくと具合が悪くなるのか?

この温泉には、こんな噂もあります。

「近づくだけで、頭が痛くなるらしい」

名前は、「呪われた者たちの温泉」

人間のような岩が並び、地面からは白い蒸気が上がっています。

そこへ硫黄のような臭いまで漂ってくれば、

「やっぱり呪いでは?」

と考えたくなるかもしれません。

実際、一部の源泉には硫化水素が含まれるとされています。

硫化水素は、濃度が高くなると頭痛や吐き気を起こすことがある気体です。

「では、具合が悪くなる話は本当なのか?」

そこまでは分かっていません。

観光客が次々と倒れているという記録はなく、人が歩く場所で危険な濃度が常に出ていることも確認されていません。

「では、何に気をつければいい?」

答えは、もっと目の前にあります。

96℃を超える熱水。
高温の蒸気。
濡れると滑りやすい地面。

呪いの噂に気を取られていると、本当に危険なものを見落としてしまいます。

最後に

ハマム・マスホウティンの岩は、神の怒りで石にされた人々ではありません。

温泉水に含まれていた成分が、長い時間をかけて固まったものです。

沸騰寸前の熱水も、地下へ入り込んだ水が、地球の熱を受けて戻ってきたものです。

今なら、その仕組みを説明できます。

けれど、昔の人々には分かりませんでした。

人間のような岩を見上げ、足元から湧く熱水を前にして、誰かが言います。

「神が怒っているんだ」

時代が変わり、ローマ人が同じ場所へやって来ます。

熱水を見た彼らは、別の答えを出しました。

「これなら浴場を造れる」

そして現代の僕たちは、白い岩を調べながら言います。

「これは、温泉水が作った地形だ」

神の怒り。
便利な熱源。
地球が作ったトラバーチン。

見ているものは同じなのに、人間が見つけた答えは時代ごとに変わりました。

ハマム・マスホウティンに積み重なっているのは、白い石灰の層だけではありません。

分からないものを恐れた人々。
使えるものを見つけた人々。
その仕組みを知ろうとした人々。

それぞれがこの風景に残した答えも、長い時間の中で重なっています。

今日も谷には白い湯気が立ちのぼり、その向こうには人の姿に見える岩が並んでいます。

同じ風景を前にして、次にそこへ立つ誰かは、いったい何を見るのでしょうか?

おまけの4コマ漫画

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佐藤直哉(Naoya sato-)
佐藤直哉(Naoya sato-)
ブロガー/小説家
文章を書くことを楽しむ自称・小説家です。
歴史や文化、日々の暮らしに潜む雑学を題材に、無駄雑学などの小噺を発信しています。
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