中世ヨーロッパの火事はなぜここまで危険だったのか?都市ごと燃えた大火災の実態

佐藤直哉(Naoya sato-)
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はじめに

中世ヨーロッパの町と聞くと、石造りの城や大聖堂が並んでいて、なんとなく「火事とは無縁そう」に見えませんか?

ところが、実態はかなり逆です。

燃えます。

かなり燃えます。

思っているより、驚くほど素直に燃えます。

なにせ家は木造、屋根は藁や葦(アシ/ヨシとも言う。水辺に自生するイネ科の多年草)、家と家は肩を寄せ合い、路地は狭い。

都市というより、よくできた薪の配置です。

しかも、その中で人々は毎日せっせと火を使う。

料理で火。

暖房で火。

鍛冶で火。

パン焼きで火。

だいたい生きる行為すべてに火がついてくる。

現代で例えるなら、木造住宅密集地の全世帯がコンロをつけっぱなしにしながら暮らしているようなものです。

しかも消防署はない。

「火事だ!」となっても来るのは消防車ではなく、寝起きの隣人。

バケツ持参。

心強いようで、少し心細い。

これで都市を運営していたのですから、人類というのは案外、大胆です。

つまり中世の火事は、「一軒燃えました」という話ではない。

町全体がまとめて危険物。

都市そのものが、火と同居していた時代だったのです。

※本記事は筆者個人の感想をもとにエンターテインメント目的で制作されています。

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家が燃える? いいえ、街がまとめて燃えます

現代で「火事」と聞くと、せいぜい一軒、悪くて数軒の話を想像します。

中世ヨーロッパは違います。

一軒燃えると、街が「では私も」と続く。

妙な協調性がある。

なにせ家は木。
屋根は藁。
路地は狭い。

家同士は近すぎて、もはや独立した建物というより運命共同体です。

そこへ火がつく。
風が吹く。
手が付けられなくなる。

説明が早い。

火にとっては理想郷みたいな都市設計です。

一軒の台所で失火。

しばらくすると市場が燃える。
教会が燃える。
橋も燃える。

最終的に「ここに町がありました」という事実だけが残る。

火事というより、都市の消失奇術。
しかも恐ろしいのは、燃えるのが家だけではないことです。

帳簿が焼ける。
契約書が焼ける。
借金の証文も焼ける。

見方によっては債務整理ですが、本人はそんな悠長なことを言っていられない。

昨日まで商人。
今日ただの焼け出された人。

人生の高低差が急すぎる。

現代なら、財布を落としただけでも青ざめるし、スマホをなくせば半日は落ち着かない。

カードは止めなきゃいけない。
連絡先は見えない。
写真も予定も消えた気がする。

小さな文明崩壊です。

ところが中世の火事は、その「困った」が家一軒ぶんでは済まないのです。

家も店も帳簿も倉も通りもまとめて燃える。
財布をなくしたどころではなく、財布のある町がなくなる。

比較の単位がおかしい。

現代の火事が「生活の事故」なら、
中世の大火は「町という仕組みの故障」です。

しかも修理業者はいない。

代替機もない。
バックアップもない。
燃えたら、灰です。

それでも人々は翌日になると、焼け跡で商売を始める。(強い)

適応していたというより、人類はわりと燃えながら暮らしていたのです。

ロンドン市「藁屋根、禁止です」

1212年、ロンドンで防火条例が出ます。

内容がたいへん切実です。

「藁と葦の屋根は禁止」

理由。

燃えるから。

説明が潔い。
回りくどさゼロ。

役所の文章とは思えないほど本質だけでできています。

しかも続きがすごい。

「八日以内に直しなさい。できなければ撤去」

猶予は一週間ちょっと。
行政というより最後通牒です。
担当役人、たぶんかなり疲れている。

「もう何回燃えれば分かるんだ」という心の声まで聞こえてきそうです。

でもこれ、笑ってしまうほど合理的なんです。

藁が燃える。
なら藁をやめる。

以上。

議論が速い。
中世の政策決定、妙な瞬発力がある。
しかも面白いのは、この条例が「防災意識の向上を呼びかけます」みたいな優しい話ではないこと。

危ない家は壊す。

終わり。
厳しい。
火事対策にしては武力感がある。
しかし裏を返せば、それほど都市火災は深刻だった。

火が頻繁に町を半分さらっていくから、ついに法律が火と喧嘩を始めたわけです。
しかも結果として、これが都市計画を進化させる。

石造りが増える。
防火規制ができる。

つまりロンドンは、燃えながら賢くなったのです。
教育方法としてはかなり乱暴ですが、効果はある。

大火とは、ある意味かなり厳格な建築顧問だったのかもしれません。

「また燃えましたか。では次から石で」

人は痛みを伴わないと学べない生き物なのかもしれません。

火を見に行って死ぬ。人類は昔から変わらない

1212年、ロンドン橋の大火。

悲劇なのに、どこか人間らしすぎて妙なおかしみがある話です。

町で火事が起きる。
すると人々が集まる。

なぜか。

見に行くためです。

そう、「火事だ!」と聞いて現場へ向かうあの性質、あれは現代の発明ではありません。

八百年前からある人類の古典的習性です。

燃えている。
危ない。
でも見たい。

本人にもなぜだか分からない。
野次馬というのは、たぶん本能に近い。

ところが人々がロンドン橋に集まったところで、風向きが変わります。

最初は橋の南側が燃えていた。

「向こうで火事だ」と橋に人が押し寄せる。

すると風で火が橋にも移る。
しかも反対側にも延焼する。
気づけば橋の入口も出口も炎。

真ん中に人だけ取り残される。
見物に来たら、自分が避難対象になる。

展開が急すぎる。

さらに川から人を救おうと、本物の救助船まで来る。
ところが皆が一斉に乗ろうとして船に殺到し、重みで沈んでしまう。

火から逃げて、水で溺れる。

運命の脚本、少し凝りすぎています。

ここで怖いのは炎だけではありません。

人の群れです。

火は広がる。
動揺も広がる。
パニックは、火より速い。

このあたり、現代の災害でも変わらない。

人は炎だけでなく、混乱に巻き込まれて死ぬことがある。
そしてこれが中世特有の話ではなく、人間の歴史において普遍に見えてしまうのです。

危険を見ると、なぜか近づく。

そしてたまに後悔する。

この性質、文明が進歩しても、どうも改善されていないようです。

消防士?いません。バケツでなんとかします

では中世で火事になったらどうするのか?

答えは、驚くほど素朴。

バケツです。

以上。

いや、本当に以上です。

現代なら消防車が来てホースが伸びて放水が始まりますが、中世は違う。

隣人が来る。
バケツを持って。
寝間着で。

少し頼もしくて、かなり不安です。

人々は一列に並んで、水を手渡しで回す。

鐘を鳴らす。
叫ぶ。
走る。
祈る。
かなり祈る。

途中から「消火」「神頼み」の比率が怪しくなってくる。

もちろん本人たちは真剣です。

命懸け。

ただ現代の感覚で見ると、巨大火災に対する装備としては、少々心もとない。
ドラゴンに洗面器で立ち向かうような気迫があります。

しかも火事は夜に起きやすい。

真夜中に叩き起こされて、寝ぼけたまま大火と対決する。

朝まで生きていれば御の字。

「昨日、暖炉の火が少し強かったかな」

その反省が翌朝、都市消失につながる可能性がある。
しかも常備消防はないから、消火するのは住民です。

つまり自宅が燃えそうになれば、自分で火を消さなければならない。

住民参加型災害。

参加したくない形式です。
それでも人々はこれで都市を守っていた。

人間、案外たくましい。

あるいは、かなり追い込まれていた。

中世都市というのは、思った以上に「暮らし」と「非常事態」の境目が薄い世界だったのです。

フィレンツェでは火事が政治になる

1304年、フィレンツェで大火。

約1700軒焼ける。
十分すぎる災害です。

普通なら「これは大変だ」で話は終わりそうなものですが、フィレンツェは少し違う。

人々がまず考えたのは、どう消すかではない。

「……誰がやった?」(急に目つきが変わる)

そっちへ行く。

火事の第一報なのに、空気はもう推理小説です。

敵対派閥の放火ではないか。
政敵の工作ではないか。
昨日まで仲良くしていた隣人まで、少し怪しく見えてくる。
(さっきまでパンを分けていた相手なのに)

疑いが燃え広がる速度、炎と同じくらい速い。

興味深いのはここです。
家が燃えている最中に、人々の関心が政治へ向かう。
普通ならまず水を運びそうなものです。

ところが、先に犯人探しが始まる。(おい消火は、となる)

現代でも大事件のあと「黒幕がいるのでは」と言い出す人はいますが、フィレンツェはそれを即日やっている。

仕事が早い。

火事なのに、途中から検察ドラマになる。
しかも考えてみると理屈はある。

火事のあとには再建がある。
土地の持ち主が変わるかもしれない。
権力の均衡も揺らぐかもしれない。

つまり大火とは、災害であると同時に政治が動く瞬間でもある。

炎の向こうに利権を見ている人がいる。

人間、たくましいというか、時々見る方向がおかしい。
さらに味わい深いのは、火が建物だけでなく人間関係まで焼いてしまうことです。

壁が焼ける。
屋根が焼ける。
ついでに信頼も焼ける。

これはなかなか重い。
火災なのに、最後に残るのは灰と疑心暗鬼。

もはや災害というより政治劇です。

火事は都市を壊し、都市を進化させた

妙な話ですが、火事は街を壊しただけではありません。

育てもした。

ずいぶん乱暴な教育ですが…。

燃える。
困る。
改善する。

文明、だいたいこの繰り返しで進みます。

藁屋根は燃える。
では石やタイルに替える。

木造が密集すると危ない。
では道幅を見直す。

夜の失火が怖い。
では夜回りを置く。

つまり中世都市は、火事に説教されながら育ったのです。

しかもこの先生、教え方がひどい。
「そこ試験に出ますよ」ではない。

燃やして教える。
授業が実践的すぎる。

現代なら黒板で教えれば済む話を、中世では街を半分焼いて覚える。
学費が重い。

しかし、この「また燃えたので直します」の積み重ねが都市を強くしたのです。

石畳も、重厚な街並みも、もとは火事の反省文の上に建っている。

観光客が「趣ある路地ですね」と写真を撮る場所が、昔は「ここ一度全部燃えました」の現場だったりします。

歴史はときどき、遠回りが豪快すぎたりします。

大火とは災害であると同時に、かなり迷惑な都市コンサルタントでもありました。
しかも毎回、焼け跡で請求してきます。

文明というのは、案外こういう無茶な授業で鍛えられてきたのかもしれません。

火は敵であり、文明そのものだった

中世の人は、火を恐れていました。

そりゃ恐れる。
町ごと燃えるのですから。

ところが同時に、火なしでは一日も生きられない。

朝起きて暖を取るのも火。
パンを焼くのも火。
鍛冶屋が鉄を打つのも火。
夜に灯りをともすのも火。
生きるために必要なことを並べると、だいたい全部、
火。

なんだこれは、という話です。

敵なのに、毎日家に招いている。

これは、癖の強い軍師を「切れ者だから」と召し抱えているようなものです。
ときどき扇を広げて「得意の火計をお見せしましょう」と言い、なぜか自分の町まで燃やす。

付き合いとして難易度が高い。

火と人間の関係って、ちょっと危うい名コンビみたいなところがあります。

「あいつは危ない」と言いながら、結局いないと困る。

離れられない。
だいぶ厄介です。

でも文明って、案外こういう厄介な相手と組んでできていたりします。

便利さというものは、たいてい少し牙があるのです。
包丁は切れるから役に立つがその切れ味が自分を傷つける。
馬は移動に便利ですが暴れて蹴られる。

火だけ特別というわけではありません。

ただ火は、自己主張が派手すぎる。
機嫌を損ねると町を巻き込んで意思表示してくる。

しかも炎で。

だから中世火災史は、単なる災害の話ではないのです。

「人は危険なものを使いこなして文明を作ってきた」という、壮大なのに少し間の抜けた歴史でもあります。

考えてみれば人類は、火を手に入れて以来ずっと、
便利と大惨事のあいだで料理をしているのかもしれません。

最後に

中世ヨーロッパの火事は、「昔はよく燃えました」で済ませるには、少し規模が大きすぎます。

家を焼いただけではない。
都市を壊し、制度を作り、政治まで動かしました。

火事が都市計画に口を出してくる。
なかなか強い存在感です。

大火のあとに石造りが増え、規制が生まれ、街は前より少し賢くなる。
ずいぶん手荒な都市開発ですが、結果として文明は前に進んでいます。

火が、厳しすぎる教師みたいな顔をしている。

古いヨーロッパの街を歩くと、石畳や大聖堂ばかり見てしまいます。

美しい。
静か。
歴史がある。

でもその下には、昔いちど盛大に燃えた記憶が埋まっているかもしれません。
そう思うと、石の街も少し違って見えてきます。
「趣ある街並み」というより、何度も焼け跡から立て直した根性の結晶です。

言ってしまえば、歴史ある都市というのは、かなりしぶとい。

燃えても戻る。
また燃えても戻る。
少し不死鳥めいている。

人間も案外そうかもしれません。

立派だから残るのではなく、しぶといから残る。

歴史に残るのは、最も強いものではなく、燃えてもなお「もう一回建てよう」と言った側なのかもしれません。

文明というのは、ときどき焼け跡から始まる。
そう思うと、古い街の灯りが、少しだけたくましく見えてくるのです。

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