中世ヨーロッパのパン、実は“硬い・酸っぱい・皿になる”食べ物でした
はじめに

パンと聞くと、多くの人はこんな光景を思い浮かべます。
ふわふわの食パン。
バター。
朝のコーヒー。
なんとなく人生が整う朝です。
ところが。

中世ヨーロッパのパンは、
そのイメージから少し外れます。
どのくらい外れるのかというと。
重い。
酸っぱい。
そして、ときどきザラザラ。
え、パンですよね?
パンです。
ただし雰囲気は少し違います。
やさしい朝食というより、
穀物のかたまり
といった方が近いかもしれません。

軽食というより
エネルギーブロック。
RPGで言うなら
HPが50回復するタイプのやつです。
では、なぜ中世のパンはこんな性格だったのでしょうか。
※本記事は筆者個人の感想をもとにエンターテインメント目的で制作されています。
理由①:パンは身分証だった

まず大事な話。
中世ヨーロッパでは
パンの色で身分がわかりました。
パンで?
パンでです。
システムは簡単。
白パン → 貴族
黒パン → 庶民
はい。
パンが社会制度。

なぜそんな差が出るのか。
理由は小麦です。
小麦には
ふすま(皮)
があります。
これを取り除くと
白い小麦粉になります。
ただし問題があります。
当時の製粉技術。
そんなに優秀じゃない。
つまり
白くするほど手間がかかる
結果どうなるか。
白パンは
お金持ちのパン。
庶民はどうするか?
小麦に
ライ麦を混ぜる。

これを
メスリン(小麦+ライ麦)
と呼びました。
味はどうか。
重い。
濃い。
腹にたまる。
軽食というより
仕事前の燃料。
おしゃれカフェのパンではありません。
農作業パンです。
理由②:パンは皿だった

ここで突然ですが質問です。
中世ヨーロッパ。
皿が足りない。
どうするでしょう?
……。
答えはパンです。
ええ、本当にパン。
厚く切ったパンを
トレンチャー
と呼ばれる“皿”として使いました。

その上に料理を置く。
肉汁が染みる。
ソースが染みる。
パンは黙って吸収する。
完全にスポンジです。
そして食事が終わる。
さて、このパンはどうなるのか?
貴族が食べる?
基本的には食べません。
理由はとても単純。
皿だからです。
料理の油やソースを受け止めるためのもの。
現代で言うなら
紙ナプキン。
あるいはキッチンペーパー。
使ったあとに食べる文化ではありませんでした。
さらに貴族の食卓では
「皿として使ったパンを食べるのは少し下品」
という感覚もあったようです。

ではこのパンはどうなるのか?
多くの場合
使用人。
貧しい人。
あるいは家畜に回されました。
つまりこのパン。
皿であり、余り物であり、そしておすそ分け。
ただし忘れてはいけません。
肉汁はしっかり染みています。
つまり庶民にとっては
わりと豪華なパン。
理由③:パンは少しザラザラだった

ここで少しリアルな話。
当時の小麦粉は
石臼
で挽いていました。
石臼。
そう。
石。
つまり削れます。
研究では
粉の1〜2%が石粒になる可能性
があると指摘されています。
つまりパン。
少しザラザラ。
砂利パンではありません。
ただ
現代パンが
シルク
だとすると
中世パンは
キャンバス。
丈夫。
素朴。
そして
歯ごたえが立派。
歯医者はちょっと忙しくなりそうです。
理由④:発酵がかなり野生

現代のパンは
工業イースト
で発酵します。
安定。
ふわふわ。
ところが中世。
そんな便利なものはありません。
主流は
サワードウ(自然発酵)。
空気中の酵母と
乳酸菌で発酵します。
この乳酸菌が
酸味
を作ります。

つまりパンは
少し酸っぱい。
特にライ麦パン。
けっこう酸っぱい。
イメージとしては
ドイツの黒パン。
ただし
もう少し素朴。
もう少し野生。

パンというより
穀物パワーバー。
中世版プロテイン。
理由⑤:でも貴族のパンは普通に美味しい

ここでひとつ、よくある誤解を修正しておきましょう。
「中世のパン=全部まずい」
これ、半分だけ正解です。
たしかに庶民のパンは
重い。
酸っぱい。
そして腹にたまる。
パンというより
穀物エンジン。
燃料です。
人間用ガソリン。
しかし。
貴族のパンは話が少し違います。

ここで登場するのが14世紀フランスの本。
『パリの家政書』
正式には
Le Ménagier de Paris(ル・メナジエ・ド・パリ)。
英語では
The Good Wife’s Guide(良妻の手引き)
と呼ばれています。
これは一言でいうと
中世パリの生活マニュアル本。
料理、家事、食卓の準備などが
かなり細かく書かれています。
その中に、こんな指示があります。
宴会の準備について。
白いパンを焼く
白いパン。
つまり
ふすまを取り除いた小麦。
軽い。
やわらかい。
そして当時としては
かなり贅沢。
つまり貴族の食卓には
ちゃんとおいしいパンが並んでいたわけです。
ここでちょっと想像してみてください。
貴族のパン。
ふわっと軽い。
庶民のパン。
ずっしり重い。
どちらを食べたいか。
……まあ答えはだいたい同じです。

ただし問題があります。
その白いパン。
ほぼ貴族専用。
当時の食卓では
白いパンが並べば上流の食卓。
黒っぽいパンが並べば庶民の食卓。
つまり
パンの色が、そのまま身分を語っていた。
パンはただの主食ではなく
ちょっとした
食べられる身分証明書
のような存在でもあったのです。
最後に

中世ヨーロッパのパンをまとめると、こうなります。
・石臼で挽く
・自然発酵
・ときどき皿
つまり、
だいぶワイルド。
パンというより、
ちょっとした生活装備です。
では想像してみてください。
あなたが中世のパン屋に入るとします。
棚に並ぶのは
ずっしり黒パン。
酸っぱい香り。
噛みごたえ、かなり本気。
一口かじる。
あなたは多分こう言います。
「硬っ」
でも三口目くらいで、たぶんこう思います。
「……これ、腹持ちすごいな」

そう。
中世のパンは
おやつではなく
エネルギー源。
ふわふわではない。
やさしくもない。
でも。
一日働く人間を
しっかり支えるパンでした。
少なくとも
腹持ちは間違いなく最強クラスです。


