なぜ夢を見てもすぐに忘れてしまうのか?――脳が仕掛けた小粋なトリック
はじめに

朝、目覚ましの音で飛び起きた瞬間、
「あれ、さっきまで確かに映画みたいな夢を見てたのに!」
と思ったことはありませんか?

そう、夢はまるで砂時計の砂のように、起きた瞬間にサラサラと指の間からこぼれ落ちていきます。
つい数秒前までリアルに感じていたはずの夢の世界が、目を開けた瞬間に跡形もなく消える――。
この現象、実は脳のかなり“戦略的な”仕組みなのです。

※本記事はエンターテインメント目的で制作されています。
レム睡眠中は「記憶の録画ボタン」をOFF状態

夢を見るのは、主に「レム睡眠(REM睡眠)」と呼ばれる浅い眠りの時間帯。
このとき、脳内ではある異変が起こっています。
記憶を司る神経伝達物質・ノルアドレナリンが、ほとんど分泌されなくなるのです。ノルアドレナリンは“記憶の保存係”のような存在で、これが減ると新しい情報を長期記憶として定着させる力がガクッと落ちます。

要するに、夢を見ている間の脳は「録画ボタンがオフ」の状態。
いくら鮮やかな夢を見ても、録画されていなければ再生(思い出)できないのは当然というわけです。

一方で、アセチルコリンという別の神経伝達物質は増加中。
これがまたクセモノで、脳を“夢の世界モード”にしてくれる一方、覚醒後のアクセスを難しくしてしまうのです。
夢のファイル形式が、起きたあとは再生できない特殊な拡張子で保存されているようなものです。
前頭前野の休憩中に、夢のメモは書かれない

さらに厄介なのが、脳の司令塔・前頭前野がレム睡眠中はお休みモードに入っていること。
前頭前野は、物事の整理整頓や記録を担当する“秘書”のような存在です。

つまり、夢の世界ではストーリーが支離滅裂でも気づかないし、「あとでメモしておこう」とも思わない。

脳全体がまるで飲み会の二次会状態。
ワイワイ盛り上がってるけど、翌朝には誰も覚えていない、あの感じです。
起き方ひとつで、夢の記憶が決まる?

実は、夢を覚えていられるかどうかは起きるタイミングにも左右されます。

ある研究では、レム睡眠の最中に起こした人の約80%が夢を思い出せたというデータがあります。
つまり、目覚ましのタイミングが深い眠り(ノンレム睡眠)だと、夢の断片は脳の深いところに沈んでしまい、思い出せなくなるんです。

もし夢をもっと覚えていたいなら、レム睡眠に近い浅い眠りで目を覚ます工夫がカギ。スマートウォッチやレム起床アラームが人気なのも、科学的に理にかなっているんですね。
夢を忘れるのは、脳の“掃除タイム”だから

「でもなんでそんな大事な夢を、わざわざ忘れるようにできてるの?」
と疑問に思うかもしれません。
そこで登場するのが、名古屋大学が発見したMCHニューロンという神経細胞。

レム睡眠中、この細胞たちはまるで“シュレッダー部隊”のように、海馬(記憶の倉庫)で不要な情報を片っ端から処理していくのです。
実験では、MCHニューロンを活性化すると記憶が消え、逆に抑えると記憶力が上がったという結果も。

夢を忘れるのは「うっかりミス」ではなく、むしろ脳の計画的な“情報整理”の一環。
つまり、夢を忘れることこそが、私たちの頭をスッキリ保つためのメンテナンス機能なんですね。
夢を覚えている人の脳はちょっとだけ“起きやすい”

不思議なことに、夢をしっかり覚えている人たちの脳は、どうやら“ちょっとだけ目覚め上手”らしいのです。
脳波を測ってみると、彼らはシータ波というリズムが強く、夜の間にほんの短い“うたた寝覚醒”を何度も繰り返しているタイプ。

つまり、夢を覚えている人は、眠りと目覚めの境界線をスルッと渡る名人。
普通の人が夢の国から一方通行で帰ってくるのに対し、彼らはパスポートを持って往復しているようなものです。
夢の世界と現実のWi-Fiをつなげて、「はい、バックアップ完了!」とでも言いたげ。

記憶をクラウド保存する感覚で、朝になっても夢の断片を再生できる
――まさに、夢界のハッカーですね。
今日からできる、夢を忘れにくくする3つの習慣

夢を覚えておくことは、才能でも偶然でもありません。
ちょっとしたコツで、あなたの脳も“夢キャプチャー能力”をアップできます。
明日の朝、夢を覚えていたら、ぜひこのページを思い出してください。

- 目覚めてすぐに動かない:
まずは「寝起きの金縛り」を自ら演出。
目を開けた瞬間にスマホを手に取るのはNGです。
数十秒だけ目を閉じたまま、夢を“逆再生”するように思い出してみましょう。
夢の断片が糸をたぐるようにつながっていくはず。 - 夢日記をつける:
枕元にノートを置いておくのがベストですが、スマホのメモでもOK。
思い出した内容を「とりあえず書く」だけで、脳の言語野が活性化し、記憶の保存モードがオンになります。
たとえ1行でも、「巨大なカエルが英語を話してた」と書くだけで十分。 - 寝る前に“夢を覚えてやるぞ”と宣言する:
バカにできません。
これは科学的にも有効な自己暗示。
寝る前に「明日は夢を覚えてる」と唱えると、脳は本気で準備を始めます。
気づけばあなたも夢のジャーナリスト。
明晰夢への第一歩です。

最後に

夢を忘れることは、悪いことではありません
夢は、脳が夜な夜な開く“心のリサイクルセンター”なのです。
昨日の感情や情報を仕分けして、
「これは残そう」
「これは削除しよう」
と選別しています。
だから朝には、ほとんどの夢がリセットされています。
忘れるのは怠けではなく、脳のスマート掃除機ルンバがフル稼働した証拠なのです。

思い出せない夢があっても大丈夫です。
それは脳がしっかり仕事をした結果です。
あなたがスッキリと目覚められたのは、脳が夜通し“ゴミ出し”をしてくれたおかげかもしれません。
夢を忘れることは、“記憶の断捨離”のようなものです。
必要な思い出だけを残し、余計な感情をそっと片づけてくれるのです。
もしすべての夢を覚えていたら
――昨日の悪夢や意味不明なストーリーが、頭の中を占拠してしまうかもしれません。

忘れることは、実は人間のやさしさのひとつだと思いませんか?
だからこそ、夢を覚えていない朝も、脳がちゃんと整理整頓を終えた証拠として、少し誇らしく感じてください。
次に夢を見たときは、無理に思い出そうとせず、
「きっといい掃除ができたな」
と、ニヤッと笑って新しい一日を迎えましょう。

