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都市伝説はいつだって口コミ産業──口裂け女はなぜ全国に広がったのか?

佐藤直哉(Naoya sato-)
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はじめに

見た人より、聞いた人の方が多かった

1979年。

ある子が言います。

「昨日、口裂け女を見た人がいるらしい」

誰が見たのか。

本人ではありません。

友達でもありません。

友達の友達です。

なのに、

翌日には別のクラス。

その次は、

別の学校。

気づけば、

誰も見ていないのに、

みんな知っている。

口裂け女より先に、

噂だけが町を歩き始めていました。

問題は、

ここからです。

この女、

町を出ます。

※本記事は筆者個人の感想をもとにエンターテインメント目的で制作されています。

放課後になると、噂が乗り換える

授業が終わります。

一人の子が、

塾へ行きます。

そこには、

別の学校の子がいる。

「口裂け女って知ってる?」

「知ってる。こっちにも出たって」

翌日。

その子が、

自分の学校で話します。

「隣の学校にも出たらしいよ」

これだけで、

噂は一つ先へ進みます。

学校。

塾。

別の学校。

また塾。

当時増えていた学習塾は、

違う学校の子どもが集まる場所でした。

研究者は、

ここが噂を運ぶ通路の一つになったと考えています。

今で言えば、

塾がSNS。

子どもが端末。

口が転送ボタンです。

しかも、

この転送。

コピーでは終わりません。

一回しゃべるたび、性能が上がる

最初は、

マスクをした女です。

それだけでも怖い。

なのに、

誰かが足します。

「ポマードって言うと逃げるらしい」

別の誰か。

「べっこう飴でも助かるらしいよ」

さらに。

「ものすごく足が速い」

どれくらい?

「100メートル6秒」

地域によっては、

5秒台。

もう逃げる意味がありません。

不思議なのは、

誰も設定を決めていないことです。

会議もない。

原作者もいない。

それなのに、

話すたびに能力だけ増える。

口裂け女は、

人を追いかけながら強くなったのではありません。

口コミされながら強くなりました。

そしてついに、

子どもの世界だけでは収まらなくなります。

新聞に載った瞬間、冗談ではなくなった

先生が言います。

「今日は一人で帰らないように」

子どもたちは、

少しざわつきます。

地域では、

大人が見回る。

学校によっては、

集団下校。

そのうち、

新聞や週刊誌まで取り上げ始めます。

ここで、

噂の立場が変わります。

昨日までは、

「友達が言ってた話」

でした。

今日は、

「新聞に載ってる話」

です。

子どもからすれば、

それだけで少し本物っぽくなる。

そして新聞を見た人が、

また誰かに話す。

口コミが記事になり、

記事がまた口コミになる。

噂が、

自分で自分を大きくし始めます。

岐阜県周辺の話だった口裂け女は、

およそ半年ほどで、

全国へ広がりました。

100メートル6秒どころではありません。

本人より、噂の方が速かった。

では、

ここまで育った怪談は、

どうやって消えたのでしょうか?

犯人は、夏休みでした

1979年の夏。

口裂け女の噂は、

急に勢いを失っていきます。

捕まったわけではありません。

正体が暴かれたわけでもありません。

学校が、

夏休みに入ったのです。

毎朝、

同じ教室に集まらない。

休み時間に、

昨日の話をしない。

塾で会う顔ぶれも変わる。

噂を次へ送る回数が、

一気に減ります。

研究者は、

この情報交換の弱まりが、

沈静化した理由の一つだと見ています。

口裂け女の弱点。

ポマード。

べっこう飴。

そんなものより、

もっと強いものがありました。

人が集まらないことです。

怪談は、

人間が運ばなければ、

案外動けません。

1979年までは。

今は、黙っていても次の人へ届く

夜。

一人の男性が、

怖い動画を見つけます。

最後まで見る。

もう一度見る。

いいねも押す。

数分後。

同じ動画を、

今度はまったく知らない人が見ています。

その人も最後まで見る。

また別の人にも表示される。

こうして、

動画は知らない人から知らない人へ渡っていきます。

1979年なら、

この間には必ず人がいました。

「口裂け女って知ってる?」

と誰かが話す。

聞いた人が、

また別の誰かに話す。

一人ずつ、

人間が次の相手を選んでいました。

今は違います。

多くの人が動画を長く見たり、

いいねしたり、

シェアしたりする。

すると、

「この動画は他の人も見そうだ」

と推薦システムが判断し、

まだその動画を知らない人の画面にも出します。

最初の人と、

次に見る人は、

友達でなくてもいい。

同じ学校でなくてもいい。

住んでいる町すら、

違っていていい。

昔は、

人が「次はあいつに話そう」と決めていました。

今は、

誰かが反応したその先を、

おすすめ機能が別の誰かへつないでいきます。

口裂け女を運ぶ役目が、

人の口だけではなくなったのです。

最後に

1979年の夏。

学校が休みに入ると、

口裂け女の噂は勢いを失っていきました。

教室で話す。

塾で別の学校へ持っていく。

また誰かが話す。

その流れが、

夏休みで途切れたからです。

それから約半世紀。

夏休みの夜。

子どもが布団の中で、

スマホを見ています。

怖い動画を一本見る。

次にも怪談。

その次にも怪談。

学校は閉まっています。

教室にも、

誰もいません。

それでも、

噂だけは次へ進んでいきます。

1979年の口裂け女には、

夏休みがありましたが、

今の都市伝説には、もう休みがないようです。

ABOUT ME
佐藤直哉(Naoya sato-)
佐藤直哉(Naoya sato-)
ブロガー/小説家
文章を書くことを楽しむ自称・小説家です。
歴史や文化、日々の暮らしに潜む雑学を題材に、無駄雑学などの小噺を発信しています。
どうぞ、ふらりと覗いてみてください。
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