都市伝説はいつだって口コミ産業──口裂け女からTikTok怪談まで

はじめに

校門の前とスマホの画面、その共通点
人はなぜこんなにも「怖い話」を語りたがるのか。
教室の隅でひそひそと交わされる怪談も、深夜にTikTokで流れてくる都市伝説動画も、本質は同じ。
どちらも「人から人へ」の口コミで広まるのです。
舞台が校門前からFor Youページに変わっただけで、仕組みは意外なほど変わっていません。
※本記事はエンターテインメント目的で制作されています。
昭和の怪談ヒットメーカー:口裂け女

1978年〜79年、日本を席巻したのが「口裂け女」です。
発祥は岐阜県と言われ、小中学生の口コミネットワークを通じて瞬く間に全国に拡大しました。
「友達の友達が見たらしいよ」という定番のフレーズが、子ども社会の“公式リリース”でした。
大人もこの流れに拍車をかけます。
学校は集団下校を実施し、地域ではパトロールを強化。
新聞やテレビまでが報じたことで、噂はただの“おしゃべり”から社会問題へと進化しました。
さらに伝承の過程でストーリーがどんどん肉付けされていきます。
「ポマードが苦手」
「べっこう飴で気を逸らせる」
「100mを5秒で走る」
など、ディテールが加わり、よりリアルで恐ろしい存在へと育っていきました。
まるでユーザーが次々と“アップデート”するオープンソースの怪談ソフトです。
平成・令和の舞台:TikTok怪談

一方、2020年代の怪談の主戦場は「TikTok」
口裂け女が校庭で広まったのに対し、TikTokでは「#怖い話」や「#都市伝説」のハッシュタグを通じて、全国どころか世界中へ瞬時に拡散されます。
TikTokの特徴はアルゴリズム。
完視聴率、いいね、シェアなどの“行動シグナル”を読み取り、コンテンツを段階的に広げる仕組みです。
言ってしまえば「口コミをAIが自動で増幅してくれる装置」
さらに、音源の流用、デュエット、ステッチ機能(他人の動画の一部を切り取って自分の動画に組み込み、コメントや続きの演出ができる機能)によって同じフォーマットの怪談が次々と複製され、派生バージョンも簡単に誕生します。
まるで昔の「友達の友達」方式が、ボタン一つで世界中に輸出されているようなものです。
例を挙げれば「きさらぎ駅」(掲示板発祥の伝説がTikTokで再演)や「Backrooms」(ネット発の不気味空間伝説が動画文化を席巻)、そして日本生まれの「八尺様」など。
いずれも“みんなで育てる怪談”として、次々と新解釈やスピンオフが生まれています。
共通点:やっぱり口コミがエンジン

口裂け女もTikTok怪談も、その広まりの中心にあるのは「口コミ」
- 人の反応が燃料
校門前の井戸端会議も、FYP(TikTokの「For You Page」の略で、ユーザーごとに最適化されたおすすめフィード)の視聴完走率も、拡散のトリガーは人の関心。 - 変異と淘汰
納得感のある要素が残り、弱い要素は消える。
ポマードは残り、ヨーグルト設定は淘汰されたように。 - 不安の写し鏡
昭和は治安や見知らぬ大人への恐怖、令和はネット社会やAIによる虚実不明への不安。
怪談はいつの時代も社会の影を映します。
違い:スピードと可視化

似ているようで、両者には決定的なギャップもあります。
昭和の怪談は“伝言ゲーム”、令和の怪談は“拡声器付きSNS”といった感じです。
- 速度
口裂け女は半年かけてじわじわ全国区に。
TikTok怪談は数時間で世界を縦断し、寝室の布団の中まで侵入。 - テンプレ化
口頭の語りは語り手のクセや地域色が混ざりましたが、TikTokは音源と動画テンプレでコピペされ、ほぼクローン妖怪が大量発生。 - 可視化とアーカイブ
口裂け女は「どうやら流行ってるらしい」程度の曖昧さが逆に不気味さを増幅。TikTokは再生数・コメント数で人気が一目瞭然、検索すれば何度でも“再召喚”。
怪談すらデータドリブンに。
最後に

都市伝説は終わらない
結局、都市伝説の本質は「人から人へ伝わる物語」であることに変わりはありません。校門の前で震えながら囁かれた「口裂け女」も、ベッドの中でイヤホン越しに聞くTikTok怪談も、どちらも“口コミ”という同じ燃料で燃え続けてきました。
時代が変わっても、人は怖い話を語り、広め、信じたがる。
その営みがある限り、新しい都市伝説はこれからも必ず生まれます。
次に広がるのはAIが生んだ“デジタル怪談”かもしれません。
けれども、その怖さを決めるのはやっぱり人の口と心。
つまり
──都市伝説は、あなたが誰かに話した瞬間から始まるのです。