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ペルーの“泣く女ラ・ヨローナ”──夏の川辺で響く嘆き声

佐藤直哉(Naoya sato-)
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はじめに

夏の夜に似合う怪談

日本の夏といえば肝試しや怪談。

縁側でスイカをつつきながら「四谷怪談」を聞く
──そんな定番の涼み方があります。

けれども遠く南米にも、夏の水辺にぴったりの怪談があるのをご存じでしょうか。

それが“泣く女”ラ・ヨローナ(La Llorona)
夜の川辺に現れ、「アイ、ミス・イーホス!(あぁ、わたしの子どもたち!)」と泣き叫ぶ幽霊です。

幽霊の泣き声で涼む発想は万国共通。
寝苦しい夜に、少し背筋を冷やしてみませんか?

※本記事はエンターテインメント目的で制作されています。

ラ・ヨローナとは?基本の物語

ラ・ヨローナの伝説はラテンアメリカ各地に広まっています。

典型的な筋書きはこうです。

  1. 美しい女性が夫(あるいは恋人)に裏切られる。
  2. 絶望のあまり、自分の子を川に沈めてしまう。
  3. 直後に悔いて自らも命を絶つ。
  4. 幽霊となり、水辺をさまよいながら子を探して泣き続ける。

彼女の特徴は白いドレスに黒髪、そして水辺に響く嗚咽。
もし夏の夜道で耳にしたら、涼むどころか全身が凍りつくはずです。

起源:植民地時代の影

この物語は単なる怪談にとどまりません。

学説によれば、ラ・ヨローナは16世紀以降のメキシコで定型化しました。
背景にはスペインによる植民地支配とキリスト教的な「母性規範」があります。

アステカの女神シワコアトルや、征服者コルテスの通訳ラ・マリンチェの影が投影されているともいわれます。
つまりラ・ヨローナは、母性や裏切り、罪悪感が渦巻く“歴史のトラウマ”の象徴でもあるのです。

言い換えれば「歴史カウンセリングを永遠に受け続ける幽霊」といった存在かもしれません。

ペルーでのラ・ヨローナ

ペルーでも「ラ・ヨローナ」の名を冠した怪談が各地で語られています。

北部の民話をまとめた児童向け怪談集にも登場します。
ただしメキシコほど一般的ではなく、映画やテレビで知る人も少なくありません。

しかしペルーには、ヨローナと“親戚関係”のような土着の物語が残っています。

アヤイママ──泣き声が鳥になる

アマゾン地方に伝わる「アヤイママ(Ayaymama)」は、「母を呼ぶ泣き声」を発する鳥の由来譚です。

子どもたちが母を求めて泣き続け、やがて鳥へと姿を変えた──という切ない話。

ヨローナは「母が子を呼ぶ声」
アヤイママは「子が母を呼ぶ声」
呼び合う声が森と川辺で響き合い、まるでペルーの自然と民話が織り交ぜられたような独特の対比になっています。

ヤクルナや“川の女”たち

またペルー・アマゾンには「ヤクルナ(Yacuruna)」「ヤラス」と呼ばれる水の精霊譚もあります。

水底の異界に住み、人を誘惑して川へ引き込む存在とされます。

日本の河童や舟幽霊に似ており、「水辺は境界」という共通の発想が見て取れます。
結局どこの国でも「夜の川に近づくな!」という警告が怪談という形をとるのです。

ラ・ヨローナは“教育ツール”?

怖い話は娯楽であると同時に、生活の知恵でもありました。

「夜に出歩くと、ラ・ヨローナにさらわれるぞ!」

「川に近づくと、泣く女に呼ばれるぞ!」

これらは子どもを水辺の事故から遠ざけるための民間版“安全教育”
日本で「山の神様に叱られるから日暮れ前に帰れ」と言われたのと同じです。

昔の親たちは怪談を“音声アラーム”として使っていたわけです。

文化を超える“泣き声”

興味深いのは、ヨローナの物語が広がるにつれて各地で姿を変えていること。

ベネズエラでは「ラ・サヨーナ」、エクアドルやホンジュラスでは別名・別容姿で語られています。

ペルーでは輸入型の「ラ・ヨローナ」と、在来型の「アヤイママ」などが並行して存在する。
つまり「グローバル幽霊」「ローカル幽霊」が共演しているのです。

夏の川辺で想像してみる

真夏の夜、川沿いのベンチに座っていると、風に混じって泣き声が聞こえる
──最初は遠く高く、やがて近く低く湿った嗚咽へ。

足元を見れば、砂利に濡れた裸足の跡が川へと続いている……。

これぞ南米版“納涼怪談”の典型、ラ・ヨローナです。

日本の四谷怪談や牡丹灯籠のように、ペルーの夜にも泣き声が響く。
ただし幽霊が探しているのは「あなた」ではなく「わが子」
その切なさが、ホラーを超えて心に残る理由かもしれません。

最後に

泣き声の余韻

ラ・ヨローナは単なる恐怖譚ではなく、「喪失」「悔恨」「母性」という人間の深い感情を映す鏡です。

だからこそ時代や国境を越えて語り継がれてきました。

「夏の夜の水辺には泣き声がある」
──そう考えると、川辺を歩く足取りも少し慎重になるでしょう。

もしかしたらその声は、“気をつけろ”と告げる昔の人々のメッセージなのかもしれません。

怖いのにどこか温かい。
そんな不思議な余韻を胸に、今夜はこの記事を閉じることにしましょう。

ABOUT ME
佐藤直哉(Naoya sato-)
佐藤直哉(Naoya sato-)
ブロガー/小説家
小説を書いていたはずが、いつの間にか「調べたこと」や「感じた違和感」を残しておきたくなりました。
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テーマはちょっと真面目。
「なんかどうでもよさそうなのに、気になる」
──そんな話を集めて発信しています。
読んだ人の中に“ひとつくらい、誰かに話したくなる話”が残れば嬉しく思います。
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