兵士たちの肖像
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酒か祈りか──中世歩兵たちのオフタイム

佐藤直哉(Naoya sato-)
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はじめに

戦場の最前線に立つ歩兵。

彼らの一日は血と汗と泥にまみれていました。
ですが、どんな過酷な日常にも「オフタイム」は存在します。
では、中世ヨーロッパの歩兵たちは命がけの仕事の合間に、いったい何で気を紛らわせていたのでしょうか。

結論から言えば
──サイコロを振り、エールをあおり、そして祈る。

この三つの行動が彼らの余暇を彩っていました。
現代でいえば「スマホゲームと飲み会と自己啓発セミナー」の三本柱。
人間、時代が変わってもやることはそう大きく変わらないのです。

※本記事はエンターテインメント目的で制作されています。

キャンプの夜はサイコロの音から

中世の兵士にとって最も手軽で刺激的な娯楽賭け事でした。

骨や角で作られたサイコロは安価で持ち運びやすく、軍営の夜を盛り上げる定番アイテム。
考えてみれば、スマホの充電もWi-Fiもない時代、手のひらに収まる娯楽といえばサイコロくらいしかありません。

出土品からは「水銀や鉛を仕込んだイカサマ賽」まで見つかっており、兵士たちがいかに本気でギャンブルに熱を上げていたかがうかがえます。
正直、命を賭けた戦場から帰ってきて、さらにダイスで全財産を賭けるとは
──“ギャンブル依存症の二重課金”状態ですね。

さらに、バックギャモンの祖先「テーブルズ」(子供の時から存在は知っているけど未だにルールが良く分からない)や、14世紀末にヨーロッパに入ってきたばかりのトランプも瞬く間に広がりました。
新しい遊びはいつだって兵士の間で人気者。
TikTokよりも早く広まったと言えるかもしれません。

ただし問題もありました。

ギャンブルが度を超すと乱闘・秩序崩壊は避けられません。
そこで軍律は「サイコロ遊び禁止令」「賭け金上限」を設け、統制を図りました。

いわば“課金ガチャ規制”の先祖ですね。

酒は命の水、でも“教会主催”です

「歩兵=酒好き」という公式は、ほぼ万国共通。

中世ヨーロッパも例外ではありません。

水質が不安定だった時代、日常の飲み物はエール(ホップ無しの麦酒)
つまり飲むしかない、飲まざるを得ない状況でした。

兵士たちは村のエールハウス(酒屋)に集い、飲みながら噂話を交換。
SNSの代わりに酔っぱらい同士の口コミネットワークが機能していたのです。
しかもエール造りは女性(Alewives)の仕事でもあり、酒場は彼女たちの社交場兼ビジネスの場。

ある意味「クラフトビール女子の先駆け」でしょう。

さらに忘れてはいけないのがチャーチ・エール(Church Ale)
これは教会が資金集めのために主催する飲み会で、音楽・踊り・寸劇つき
ある教区では歳入(年間の収入)の6割以上がこのエール祭で稼がれたという記録もあります。

つまり「教会=宗教施設」であると同時に「イベント運営会社」でもあったわけです。

戦地に向かう前の歩兵が「神よ、加護を……」と祈ったその直後、同じ教会でビール片手に踊っていたと考えると、人間の二面性がよくわかります。

戦場の朝は祈りから始まる

どんなに酔っ払い、どんなに賭けに狂っても、翌朝はきっちり祈るのが中世兵士。

軍には必ず従軍司祭が帯同し、ミサや説教、戦死者の埋葬を担当しました。

有名なのは1415年のアジャンクールの戦い
開戦直前、兵士たちは一斉に告解を行い、罪を清めてから突撃しました。
現代でいえば「戦う前に全員でメンタルコーチに相談」みたいなもの。
宗教は精神安定剤であり、士気ブースターでもあったのです。

つまり歩兵のオフタイムは「酒で現実を忘れ、賭けで熱狂し、祈りで心を整える」という三段階構成。

なんとも人間らしいバランスです。

どこまで許された?軍律という“監視アプリ”

もちろん、好き勝手に遊べたわけではありません。

軍律は現代のコンプライアンス規定以上に厳格でした。
1385年のイングランド軍規則には「教会破壊や女性への乱暴は重罪」と明記されており、酔ってやらかした兵士は容赦なく処罰されました。

ヘンリー五世の時代には「女性の野営地出入りを禁止」などもあり、秩序維持が最優先。

要するに「オフの自由」「軍の統制」の綱引きが常に行われていたのです。
兵士たちは現代人と同じように、「上からの規制に文句を言いつつ、抜け道を探す」日々を送っていました。

最後に

中世兵士の“人間臭さ”に乾杯

中世歩兵のオフタイムを振り返ると、そこには極めてシンプルな人間の本能が見えてきます。リスクを忘れるための、スリルを味わうための賭け事、そして生きる意味を確かめるための祈り

現代の私たちが週末に「飲み会・推し活・自己啓発セミナー」を掛け持ちしているのと、本質的にはそう変わりません。
唯一の違いは、彼らの翌日の予定が「会社」ではなく「戦場」だったことくらいでしょう。

もしタイムマシンで中世の野営地に迷い込んだら
──あなたは酒盛りに加わりますか? 

それともサイコロを振りますか? 

あるいは静かに祈りますか?

答えは人それぞれですが、きっと歩兵たちは笑ってこう言うはずです。

「まあ、全部やっとくのが一番だぜ」

4コマ漫画「歩兵のオフタイム」

ABOUT ME
佐藤直哉(Naoya sato-)
佐藤直哉(Naoya sato-)
ブロガー/小説家
小説を書いていたはずが、いつの間にか「調べたこと」や「感じた違和感」を残しておきたくなりました。
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テーマはちょっと真面目。
「なんかどうでもよさそうなのに、気になる」
──そんな話を集めて発信しています。
読んだ人の中に“ひとつくらい、誰かに話したくなる話”が残れば嬉しく思います。
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