全ての人間は“同じ夢”を見ている?──夢の構造に潜む共通パターン

はじめに

夢は「個人的」なのに「普遍的」?
昨日あなたが見た夢を思い出してください。
追いかけられた?
遅刻した?
歯が抜けた?
もしかすると空を飛んでいた?
「そんなのよくある夢だよね」と思った方
──そう、その“よくある夢”こそが今回のテーマです。
なぜ世界中の人が似たような夢を見るのでしょうか?
まさか全人類が同じ脚本を共有している……なんてオカルト話?
でも安心してください。
ここでは脳科学と集合的無意識という二つのレンズを使って、この奇妙な現象を深堀りしていきます。
※本記事はエンターテインメント目的で制作されています。
1. 「同じ夢」の定義──ストーリーではなく“型”

まず大前提。
夢は一語一句まで同じ脚本を共有しているわけではありません。
さすがに全世界の人が「昨日、上司がトナカイの格好で登場しました」とはならないでしょう。
ここでいう「同じ夢」とは、テーマや構造、感情のパターンが似ることを指します。
典型例としては──
- 追いかけられる
- 高いところから落ちる
- 学校や会社に遅刻する
- 歯が抜ける
- 空を飛ぶ
これらは各国の調査で繰り返し上位にランクインする“典型夢(typical dreams)”。
文化も言語も違うのに、国境を越えて不思議なほど似ているのです。
2. 世界共通の「夢ランキング」

実際、カナダやドイツで行われた調査「Typical Dreams Questionnaire」でも、被追跡、落下、飛行、試験の失敗といったテーマが安定して上位に入ります。
さらに、米国の「DreamBank」プロジェクトでは膨大な夢の報告をコーディングして分析。
結果は
──人種や文化を超えて、登場人物・攻撃・友情・不安などの“語彙”がかなり共通していたのです。
もちろん細部には差があります。
例えば「攻撃性が多めに出る文化」や「友情が強調されやすい文化」など、社会背景の違いは反映されます。
けれども根本的なパターンは人類共通。
まるで“夢の世界共通語”があるかのようです。
3. 脳科学の視点──夢はシミュレーション装置

では、なぜそんな共通パターンが出るのでしょう?
鍵を握るのは私たちの脳。
夢は社会シミュレーション仮説や脅威シミュレーション理論で説明されます。
ざっくり言えば──
- 社会シミュレーション仮説
夢は「人間関係のリハーサル」
友人や同僚とのやりとりを夜な夜な脳がシミュレーションしている。 - 脅威シミュレーション理論
夢は「危機回避の訓練」
追いかけられたり、戦ったりする夢は、祖先が捕食者から逃れる練習だった?
つまり夢は「VRトレーニング」みたいなもの。
現代ではゾンビに追いかけられるけど、太古ならサーベルタイガーに追われていたのかもしれません。
4. REMでもNREMでも夢は起こる

「夢=REM睡眠」と思われがちですが、実際はNREM睡眠でも夢は発生します。違いはあって、REMは映像的で派手、NREMは思考的で地味、といった傾向。
また夢のときは、感情や映像を処理する脳領域が活発なのに対し、論理や自己監視を担う前頭前野の一部は休んでいる。
その結果、映像は鮮やかだけどストーリーはツッコミどころ満載
──あの独特の夢ワールドが生まれるわけです。
要するに、夢の“文法”は脳の仕組みからして共通。
だから世界の人が同じような夢を見やすいのです。
5. 日常の延長としての夢──連続性仮説

さらに夢は現実の延長でもあります。
心理学では連続性仮説と呼ばれ、「日常で強く感じたことが夢に反映されやすい」と考えられています。
例えば試験前に「遅刻する夢」を見るのは典型。
社会的ストレスや身体的な違和感も夢に入り込みます。
実際「歯が抜ける夢」と歯ぎしり(睡眠中のブラキシズム)に関連があるという研究も。
つまり夢は“現実のコピー+脳の加工品”。
コピー機がちょっと壊れていて、やたらシュールに印刷される
──そんなイメージでしょうか。
6. 集合的無意識という大胆な仮説

ここで心理学の古典に登場するのが、カール・ユングの集合的無意識。
人類に普遍的な「元型(アーキタイプ)」があり、それが夢や神話に表れるという考え方です。
「英雄」
「母」
「トリックスター」
といった象徴的パターンは文化を超えて登場します。
夢に出てくる“歯の喪失”や“追跡される場面”も、こうした元型の一部と見なせるかもしれません。
科学的にどこまで実証できるかは議論の余地あり。
でも「人類共通の夢の設計図がある」と考えるのは、ロマンがありますよね。
7. 「同じ夢」仮説の答え

では改めて
──「全人類は同じ夢を見ているのか?」
答えは「ストーリーは違うけど“型”は似ている」
夢は共通の脳の仕組みと人類普遍の課題(社会・脅威)、そして身体感覚によって似たパターンを生み出します。
集合的無意識は比喩的すぎるかもしれませんが、「同じ条件が似た夢を作る」と言えば納得がいきます。
最後に

夢という“人類共通の物語”
夢は個人の日記でありながら、同時に人類共通のシナリオでもある。
私たちが見ているのは、自分だけの小説ではなく、太古から続く“大型シリーズ”の一話なのかもしれません。
次に追いかけられる夢を見たら、思い出してください。
遠い国の誰かも同じように走っている。
そう考えると、悪夢すらちょっとした連帯感に変わるのではないでしょうか。
夢の世界で、私たちは案外ひとつにつながっているのです。