無限反証ネットワーク【ショートショート】
天才が作った、終わらない地獄
「これで、俺はついに数学界の頂点だ!」
ヤマシタはついに完成した自作ネットワーク『マス・ネット』を前に、得意げに叫んだ
――このシステムさえあれば、世界中の数学者が数式を共有し、一瞬で検証できる。
誰もが俺の数式を認め、数学界のスターになれる日がついにやってきたのだ。
「もう孤独じゃない! 俺の時代が来た!」
彼は早速、システムを稼働させた。
モニター上には、世界中の数学者たちが続々と接続し、自分の数式をアップロードしていた。
すぐに反証や新しい定理が生まれ、次々に数式が検証されていく様子が広がっていく。
「よしよし、これで俺の数式も認められる!」
ヤマシタは興奮気味に自分の定理をアップロードした。
ついに、学会で無視され続けた日々は終わる――はずだった。
しかし――
「ん? なんだこれ……?」
数秒後、ヤマシタの数式は見事に粉砕され、反証の嵐が吹き荒れていた。
彼の定理に対する反論が次々と現れ、数式はあっという間に無意味なものにされてしまった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! これ、俺の定理だぞ!? なんでこうなるんだ!」
ヤマシタは焦り、モニターを凝視した。
どうやらマス・ネットは、すべての数式に対して「絶対に反証が見つかる」という仕組みになっていた。
検証が公平すぎるがゆえに、すべての数式が必ず反論されるのだ。
「え? 俺、間違えた?」
彼は一瞬固まったが、すぐに気を取り直した。
いやいや、これはまだ初期の不具合に違いない。
これから改善すれば大丈夫だ。
そう自分に言い聞かせながら、もう一度定理をアップロードした。
「今度こそ……よし、これで……」
だがまたしても、数秒後には反証が次々と現れ、彼の数式は再び崩れ去った。
「おい! マジかよ!?」
ヤマシタは机を叩き、モニターを見つめた。
ネットワーク上では、数学者たちが次々に数式を検証し、誰一人として正解にたどり着けない。
議論は果てしなく続き、反証が絶え間なく繰り返されていた。
「え……これ、もしかして……永遠に終わらないんじゃ?」
ヤマシタは冷や汗をかきながらつぶやいた。
まさか自分が作り出したシステムが、誰も正解にたどり着けない「無限反証ループ」に陥るとは……。
「いやいや、待てよ! これこそ数学の究極形だ! 無限の探求だよ!」
必死に自分を慰めるが、その声は虚しく響く。
モニターの向こうでは、数学者たちが次々に議論を繰り返し、どれもこれも無に帰していた。
そして――
「……これ、ただの地獄じゃないか!」
ヤマシタは頭を抱え、絶叫した。
自分を救うはずだったマス・ネットは、誰もが孤立し、誰も正解にたどり着けない無限のカオスを生み出すシステムだったのだ。
「……俺、天才のはずなんだけどな……」
ヤマシタはうなだれ、虚無感に襲われながら机に突っ伏した。
数学の究極形を目指した彼の夢は、永遠に破れ去った。