石の城、鐘の音、そして…鼻への攻撃―中世ヨーロッパ都市の意外すぎる衛生事情
はじめに

中世ヨーロッパの街並み。
石畳。
尖塔。
市場。
鐘の音。
いい雰囲気ですよね。
映画のオープニングなら、ここでカメラがゆっくり街を俯瞰します。
パン屋から湯気。
教会の鐘。
馬車の音。
そしてナレーション。
「ここは中世ヨーロッパ――」
ロマンです。
歴史ロマン。
観光パンフレットなら
この時点でページを閉じても満足できそうです。
しかし。
もしあなたがタイムスリップして
その街を実際に歩いたらどうなるでしょうか?
おそらく3分以内に起こることがあります。
鼻の抗議です。
かなり本気で。
「ちょっと待って」
しかも二回くらい言います。
理由は単純です。
中世の都市は、かなり臭かったのです。
かなり。
思っているより。
歴史的に見ても
なかなかのレベルで。
※本記事は筆者個人の感想をもとにエンターテインメント目的で制作されています。

ただし誤解もある「中世=汚物都市」は半分だけ

ここでよくあるイメージがあります。
「中世の街は汚物まみれ」
「人々は不潔」
こういう話、よく聞きます。
しかしこれは
半分本当で
半分ちょっと盛られている話です。
どういうことか。
中世の人たちも普通に思っていました。
「この街、臭くない?」
つまり彼らも
普通に困っていた。
現代で例えるなら、
巨大音楽フェス。
観客10万人。
ゴミ箱4個。
そしてイベントは
終わりません。
三日間でもありません。
数百年続きます。
それが中世都市です。
文明の耐久テストみたいな状況です。
公式記録に残る「この街クサい」

まず歴史資料から見てみましょう。
1332年。
イングランド王
エドワード3世。
王様です。
その王様が
ヨークの街について苦情を出しています。
内容を要約するとこうです。
「この国のどの都市よりも悪臭がひどい」
王様。
かなり直球です。
しかも原因もはっきり書いています。
糞。
堆肥。
その他いろいろ。
それが街路に溜まっている。
だから
掃除しなさい。
と命令。
言っていることは完全に正論です。
ただニュアンスだけ抜き出すと
「来客あるから部屋片づけなさい」
に近い。
ただし来客は
王国議会。
そして部屋は
都市全体。
スケールが
ちょっとだけ違います。
上空注意:中世ロンドンの落下物

中世都市の話で
必ず出てくるものがあります。
それがこれ。
窓から汚物を捨てる。
え、本当に?
はい。
本当にです。
1382年のロンドン市政記録。
そこにこう書かれています。
「窓から水を投げ捨ててはいけない」
ちゃんと地面に降ろして
排水溝に流しなさい。
ここで大事なポイント。
禁止されているということは。
……はい。
やっていた人がいるということです。
しかも一人ではない。
人類は昔から
「ここにゴミを捨てないでください」
という看板の前に
なぜかゴミを置く生き物です。
ただし中世の場合
問題が一つあります。
ゴミが
空から来る。
歩いていると
上からバケツが降ってくる可能性。
現代の都市で例えると
マンションの上階から
突然スープが降ってくる感じです。
しかもスープではありません。
その話は
これ以上具体的にしないほうが
みんな幸せだと思います。
中世市役所、かなり頑張る

ここで一つ誤解を解いておきましょう。
中世の街は
「好き放題に汚して終わり」
だったわけではありません。
むしろ行政は
かなり頑張っていました。
1378年のロンドン。
議題。
・テムズ川清掃
・水路修理
・清掃人の配置
つまり
ゴミ回収システム
です。
思ったより文明です。
ただし清掃官の仕事には
ちょっと変わったものがあります。
それがこれ。
放し飼いの豚の取り締まり。
清掃官の一日。
朝
ゴミ対策。
昼
排水管理。
午後
豚追跡。
夕方
ガチョウ追跡。
だんだん
RPGのサブクエストみたいになってきます。
ご近所トラブル:原因はだいたい排水

中世ロンドンには
面白い史料があります。
『London Assize of Nuisance』
迷惑トラブル裁判記録です。
読んでみるとわかります。
人類は昔から
ご近所トラブルに悩んでいます。
1314年。
ある家が
トイレから木の管をつないで
排水溝に流していました。
結果
詰まる。
臭う。
近所キレる。
裁判。
撤去命令。
つまり
中世の配管トラブル。
さらに1318年。
排水溝が隣の土地に流れ込み
建物の木材を腐らせる。
これはもう
ご近所トラブルというより
建築災害です。
都市衛生のラスボス:肉屋

中世都市の衛生問題。
その最大の原因の一つ。
それが
屠殺廃棄物。
家畜を解体すると出ます。
血。
内臓。
脂。
骨。
1391年。
ロンドンのホルボーン橋周辺。
この問題が爆発します。
市の判断。
「肉屋は市内1マイル以内に
汚物を捨ててはいけない」
とても合理的です。
しかし問題があります。
それが
テムズ川。
人々はこの川で
飲む。
洗う。
運ぶ。
生活のすべてがここにあります。
そこに
血。
内臓。
糞尿。
つまり川は
都市の生活インフラであり
同時に巨大排水口でもあった。
これは
さすがに問題になります。
考古学、容赦なし

ここで登場するのが
歴史学界のリアリスト。
考古学。
地面を掘ります。
そして出てきます。
剣。
壺。
装飾品。
そして。
寄生虫。
中世の便所跡から
回虫や鞭虫の卵が見つかっています。
つまり
当時の衛生環境は
人体にも影響していた。
しかもこれは
都市だけではありません。
修道院でも見つかっています。
祈り。
信仰。
規律。
しかし寄生虫は
信仰にはあまり興味がないようです。
虫
「環境いいですね ★★★★★」
それは困ります。
人類、ついに文明を手に入れる

この状況を変えたもの。
それが
上下水道。
城でもありません。
剣でもありません。
でも
人類史のMVP候補です。
都市はやがて
排水を街の外へ運ぶ仕組みを手に入れます。
今では当たり前ですよね。
レバーを押す。
流れる。
終わり。
しかしこれは
人類史レベルの革命。
もしこの仕組みが止まったらどうなるか。
……想像は
しない方がいいと思います。
文明への信頼が
少し揺らぐかもしれません。
最後に

ロマンの街、その裏側
中世の都市は
現代の基準で見れば
確かに不衛生でした。
城では壁の外へ落とすトイレ。
都市では共同便槽。
寄生虫の問題。
悪臭。
しかしそれは
人々が不潔だったからではありません。
理由は単純です。
人口の増え方に対して
設備が追いつかなかった。
それだけです。
それでも人々は
規則を作り
清掃を行い
街を管理しようとしていました。
つまり中世都市は
「汚い街」
というより
汚れやすい都市を必死に運営していた社会
だったとも言えます。
美しい城や街並みを見るとき。
少しだけ想像してみてください。
その場所に住んでいた人たちの生活を。
そしてもしあなたが
中世の都市を歩いたとしたら。
おそらく最初に気づくことは
景色ではありません。
建物でもありません。
それは
都市の音です。
馬。
人。
市場。
そして
遠くから聞こえる誰かの声。
「ちょっとどいて!」
振り返ると。
荷車が来ます。
満載です。
何が?
……それは。
できれば考えない方がいい種類の荷物です。
中世の都市は
ロマンと同時に
かなりリアルな生活の匂いがする場所
でもあったのです。


