日常のふしぎ
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昔ながらの床屋が強い理由|街角で回転灯が回り続けるワケ

佐藤直哉(Naoya sato-)
<景品表示法に基づく表記>当サイトのコンテンツ内には商品プロモーションを含みます。

はじめに

スマホで予約、10分でカット、顔はAIが認証
――そんな時代でも、角を曲がるとまだ“いつもの回転灯”が回っています。

昭和の空気をまとった床屋は、なぜ潰れないのでしょうか。

答えはロマンでもノスタルジーでもなく、意外と堅実なビジネスロジックにあるのです。

ここでは、常連固定客/価格の安定/一人(少人数)で回せる構造/地域の社交場という4本柱に絞って、データと生活感の両面から解説していきます。

※本記事はエンターテインメント目的で制作されています。

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髪は伸びる、だから床屋はなくならない

ビジネスには「なくなる需要」「止まらない需要」があります。

ビデオレンタルは消えましたが、髪は伸びます

パンデミックでも在宅勤務でも、前髪は容赦なく伸びてきます。
つまり床屋は「景気に左右されにくい日常の必需品」なのです。

必要な時に思い出すのが、街角のあの椅子。
ここからが勝負の分かれ目になるのです。

常連固定客が土台を作る

昔ながらの床屋は、とにかく常連の比率が高いのです。

厚労省の調査でも、固定客が8割以上という店は珍しくなく、「90〜100%が固定客」というデータもあります。

これは「新規獲得型」ではなく「お得意さん依存型」のビジネスモデルです。

常連の価値は売上の安定だけではありません
会話がスムーズで施術時間が予測しやすく、予約の波も穏やかになります。

マーケティングでよく言われる“1:5の法則”(新規獲得コストは既存維持の5倍)を、現場で体現しているのが床屋です
SNSや広告に多額を投じる必要もなく「いつもの」という一言で来店が決まるのです。

しかも常連の中心は50代以上の男性

彼らは生活リズムが安定し、「月1回で整える」というルーティン化が進んでいます。

サブスク動画の視聴履歴よりも、刈り上げの周期のほうが規則正しい
――そんな世界です。

バリカンの音を聞くと眠くなるのは“パブロフの床屋”現象(筆者造語)です。
「ここに座ればスッキリする」という条件反射が、脳をリラックスに切り替えるのです。

価格がブレにくいから習慣が続く

次は価格の安定です。

総務省の統計によると、物価が大きく動く局面でも、理髪料の上昇は比較的緩やかです。
もちろん地域差はありますが、少なくとも「突然2倍」なんてことはほぼ起こりません。

この値段の“読みやすさ”が来店の習慣化につながります。
人は予測できるものを選びやすい生き物です。

コンビニで毎回同じコーヒーを買うのも、味より「失敗しない安心」への支払いと言えるでしょう。
床屋の価格も同じで、「次もだいたい同じ」と分かるから予定に組み込みやすいのです。

財布の中身も心の準備も整いやすくなります。

ときには“カット+顔剃り+肩もみ”のフルコースが、コンビニのプレミアムサンドより安いこともあります。
コスパの概念が揺らぐ瞬間です。

一人(少人数)で回せるから強い

統計をみると、理容店の多くは個人経営で、従業員も1〜2人規模が中心です。

つまり少人数運営を前提とした業態なのです。
固定費が低く、在庫リスクもほぼありません。
席と道具と技術があれば店は回ります(もちろん免許や修行は必要です)。

この構造は不況に強いのです。

人件費という重いコストに縛られにくく、売上が少し下がっても赤字になりにくい
しかも自宅兼店舗も多いため、家賃の負担も小さいのです。
営業時間は長め(1日10〜11時間が主流)ですが、むしろお客の生活リズムに合わせやすく、取りこぼしを減らせます。

巨大な豪華客船ではなく、機動力の高い漁船
天気(景気)が悪くても港の近くで稼げる
――床屋はそんな存在です。

髪を切るだけじゃない、地域の社交場

床屋は、江戸時代の髪結い床から続く情報交換の場でもあります。

地元のちょっとしたニュースや世間話、人生相談まで飛び交う場所です。
ここでは理容師=技術者+聞き手+地域の潤滑油という役割を担っています。

社会学の研究でも、理髪店はサードプレイス(第三の居場所)として機能してきたと指摘されています。
これは“体験”の価値であり、アルゴリズムには置き換えられません。
若い世代の新規客が増えにくい店でも、父から子へ受け継がれることがあるのは、この“ブランドの遺伝”があるからです。

カット中の沈黙も含めて体験です。
沈黙に課金していると言うと奇妙ですが、あの静けさは意外と貴重なのです。

チェーンとのすみ分け

10分カット系の大手チェーンの存在感は確かに大きいです。

しかし個人床屋は、顔剃り・シャンプー・マッサージなどのメニューや、滞在体験で差別化し、価格より“納得感”で勝負しています。
つまり、速さと均質さはチェーンが、丁寧さと関係性は個人店が担い、すみ分けが進んでいるのです。

「昼休みに10分でサッと」派と「日曜午後に整う儀式」派。
どちらの需要も存在します。
TPOならぬHHO(Hair-Head-Occasion)で選び分ける時代です。

高齢化・店数減、それでも残る店

業界全体では、店舗数は減少傾向にあり、経営者の高齢化も進んでいます。

廃業理由の多くは「後継者不在」
つまり「潰れた」というより「畳んだ」ケースが大半なのです。

それでも残る店には理由があります。

固定客の厚み、価格の安定、少人数運営、社交場としての価値
――この複合力がある限り、“選ばれ続ける床屋”は残るのです。

逆に言えば、ここを磨ける店が次の10年を生き抜くのです。

若い世代に刺さるアップデート

今どきの若いお客さんにとって、“行ってみようかな”と思えるきっかけはちょっとした工夫にあります。

そこで床屋がすぐに取り入れられるアップデートを紹介します。

  • 検索と地図を整える
    Google検索や地図アプリで、正しい営業時間や価格が一目でわかると安心感が増します。
  • 予約はシンプルに
    電話だけでなく、簡単なフォームやLINE予約があると「今度行こう」が「今すぐ行こう」に変わります。
  • 写真で“空気”を伝える
    最新の機器よりも、椅子の艶やタオルの清潔感、光の差し込み方などを写真で見せると雰囲気が伝わります。
  • 会話スタイルを選べる
    「今日は静かに」「今日は話したい」を伝えられる仕組みがあると居心地が一気に良くなります。
  • 小さなサブスク感覚
    月1カット派には「次回予約割引」や「3回来店で特典」など、通う理由をさりげなく作れます。

床屋のDX(デジタルトランスフォーメーション=デジタル技術を使ってサービスや仕組みを便利に変えること)は派手さより“安心感”です。
「行く前の不安が一つ消える」
――それだけで次の常連が育ちます。

最後に

回転灯は明日も回る

昔ながらの床屋が潰れない理由はシンプルです。
常連が土台を作り、価格が習慣を支え、少人数運営がコストを抑え、社交場の価値が体験を深める

それぞれ単独でも強力ですが、4つ揃うことで“揺るがない安定”になるのです。
派手さはなくても、風に倒れない“低い重心”があるのです。

最後にひとつ。

カットを終えて鏡の自分と目が合う瞬間、世界が少し明るく見える。あのさっぱり感こそ、床屋の最大のマーケティングです。

アルゴリズムは刈り上げを作れません。
明日も回転灯は回ります。
あなたの街角で、変わらない速度で。

ABOUT ME
佐藤直哉(Naoya sato-)
佐藤直哉(Naoya sato-)
ブロガー/小説家
「なぜ?」を追いかけるのが好きで、歴史や文化、暮らしの中の雑学を集めています。
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——そんな記事をお届けします。
気楽にのぞいてみてください。
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