世界一まずい飴なのに国民的おやつ?サルミアッキが愛され続ける本当の理由
はじめに

「世界一まずい飴」
そんな呼び名を持つお菓子があります。
その名は、サルミアッキ。
黒い見た目。
薬のような香り。
甘いと思って口に入れると、塩気、苦味、刺激が一気に押し寄せます。
初めて食べた日本人の反応は、だいたい似ています。
「これ、本当にお菓子?」
ところが、フィンランドでは子どもから大人まで普通に食べられています。
嫌々ではありません。
むしろ、大好物だという人も珍しくありません。
日本では罰ゲーム。
フィンランドでは懐かしいおやつ。
同じ一粒なのに、評価は真っ二つです。
なぜ、ここまで違うのでしょうか?
答えは、サルミアッキの中だけにあるわけではありません。
僕たちが「おいしい」と感じる仕組みそのものにありました。
※本記事は筆者個人の感想をもとにエンターテインメント目的で制作されています。
「世界一まずい飴」と呼ばれる理由

最初に確認しておくと、サルミアッキは本当に世界一まずいと決定されたわけではありません。
世界大会もありません。
審査員が並んで点数をつけたわけでもありません。
「はい、今年の最下位はこちらです」
そんな表彰式は開かれていないのです。
それでも「世界一まずい飴」という呼び名が広まったのは、初めて食べた人の反応があまりにも派手だったからです。
口に入れた瞬間、顔が止まる。
↓
数秒後、眉間にしわが寄る。
↓
そして、ひと言。
「薬じゃないの?」
この反応は映像にすると非常に分かりやすく、テレビや動画の定番になりました。

普通の飴は、食べても事件が起きません。
サルミアッキは、一粒で表情が変わります。
そのため、味より先に「まずい飴」という評判だけが世界へ広がっていきました。
しかし、強烈な反応を見せるのは、ほとんどが食べ慣れていない人です。
フィンランドの人が同じ飴を食べても、特に何も起きません。
「普通においしいけど?」
つまり、世界一まずいというより、世界一リアクションを取りやすい飴だったのです。
サルミアッキとは何者なのか?

サルミアッキは、リコリス菓子(甘草というハーブを使ったお菓子)の一種です。
ただし、普通のリコリス菓子とは決定的な違いがあります。
塩化アンモニウムが入っているのです。
「塩化アンモニウム?」
名前だけ聞くと、お菓子売り場より理科室に置いてありそうです。
この成分が、サルミアッキ独特の塩気と刺激を生み出します。
問題は、その味が日本人のよく知る「しょっぱい」とは少し違うことです。
塩味が来る。
苦味も来る。
独特の香りも残る。
その奥から、甘さまで出てくる。
味が一列に並んで来るのではありません。
全員が同時に玄関へ入ってきます。
「一人ずつ来てくれない?」
そう言いたくなるほど、口の中が忙しいのです。

しかも、日本では飴といえばたいていが甘いものです。
果物味。
はちみつ味。
ミルク味。
そこへ突然、塩気と苦味を持った黒い飴が現れます。
味が強烈なだけではありません。
「飴は甘い」という予想まで裏切ってくるのです。
だから最初の一粒は、味見というより確認作業になります。
甘いのか?
しょっぱいのか?
苦いのか?
そもそも本当に飲み込んでよいのか?
サルミアッキは、舌だけでなく判断力まで試してきます。
なぜフィンランド人は平気なのか?

では、なぜフィンランドでは普通に食べられているのでしょうか?
答えは単純です。
子どもの頃から食べているからです。
「それだけ?」
それだけです。
フィンランドでは、サルミアッキは珍しい挑戦用のお菓子ではありません。
スーパーや菓子店に並ぶ、身近な味です。
家族からもらう。
友達と分ける。
学校帰りに買う。
そうして何度も口にするうちに、独特の塩気や苦味が「変な味」ではなくなっていきます。

日本人にとっての梅干しを考えると分かりやすいかもしれません。
初めて食べる人にとっては、かなり強烈です。
酸っぱい。
しょっぱい。
顔が勝手に縮む。
それでも日本では、ご飯のお供として普通に食べられています。
「梅干しをわざわざ食べるの?」
そう聞かれても、日本人からすれば不思議ではありません。
サルミアッキも同じです。
フィンランドの人が特別な舌を持っているわけではありません。
慣れているのです。
しかも、味には記憶が結び付きます。
子どもの頃のおやつ。
家族と食べた時間。
友人と分けた一袋。
そのため、大人になってから食べるサルミアッキには、味だけでなく懐かしさまで含まれています。
日本人には薬のように感じる一粒が、フィンランドでは子ども時代を思い出す一粒になるのです。
「薬みたい」には理由がある

サルミアッキを初めて食べた人から、よく出てくる感想があります。
「薬の味がする」
これは単なる気のせいとも言い切れません。
塩化アンモニウムは、かつて咳や痰に関わる薬に使われていました。
リコリスも、喉をいたわるものとして長く利用されてきた植物です。
ただし、どこの誰が最初に両者を混ぜたのかは、はっきりしていません。
薬局で作られていた、のど飴のようなお菓子から広まったという説はありますが、サルミアッキの誕生には不明な部分も残っています。
それでも、薬局とのつながりを感じさせる商品は実際にあります。
フィンランドには「薬局のサルミアッキ」を意味する名前の商品があり、1950年代から親しまれてきました。
つまり、初めて食べた人が、
「これ、お菓子ですよね?」
と確認したくなるのは、かなり自然な反応です。
サルミアッキは、薬のようなお菓子というより、薬とお菓子の境目に近い場所から広まった味だったのです。
半分は吐き出し、半分は好きになった

サルミアッキの面白さがよく分かる話があります。
ヘルシンキの専門店を訪れた約20人の観光客が、その場で初めてサルミアッキを試食しました。
すると、約半数は思わず吐き出しました。
ところが、残りの半数はすぐに気に入りました。
同じ場所で、同じお菓子を食べたのに、反応は真っ二つです。
これほど好みがはっきり分かれるお菓子も珍しいでしょう。
本当に誰にとってもまずいのなら、全員が同じ顔をするはずです。
しかし、実際には一口で好きになる人もいます。
フィンランドでは、その味を飴だけに閉じ込めてもいません。
アイス。
チョコレート。
焼き菓子。
さらには、コーヒーやヨーグルトへ入れる人までいます。
罰ゲームとして我慢している文化ではありません。
かなり積極的に増やしています。
「世界一まずい」と呼ばれている一方で、フィンランドでは次々と新しい食べ方が生まれているのです。
味覚は子どもの頃に覚える「母国語」だった

僕たちは、食べ物のおいしさを舌だけで判断しているように思います。
しかし、実際には経験も大きく関係しています。
何度も食べた味。
家族と食べた味。
安心できる場所で食べた味。
そうした記憶が積み重なり、「これはおいしい」という感覚が作られていきます。
「おいしさは生まれつきじゃないの?」
もちろん、生まれつき好みやすい味もあります。
甘さはその代表です。
一方で、苦味、酸味、発酵臭、強い刺激などは、経験によって評価が変わりやすい味です。
納豆が分かりやすい例です。
日本人には朝食でも、食べ慣れていない人にはかなり難しい食品です。
においが強い。
糸を引く。
見た目も独特。
冷静に考えると、初心者に優しい要素がほとんどありません。
それでも、子どもの頃から食べてきた人には普通の食べ物です。
ブルーチーズ。
香辛料の強い料理。
酸味の強い発酵食品。
どれも同じです。
食べ慣れた人には魅力。
慣れていない人には異変。
味覚は、言葉と少し似ています。

子どもの頃から聞いてきた言葉は、考えなくても意味が分かります。
しかし、知らない言葉を突然聞いても、音にしか聞こえません。
サルミアッキも、フィンランドの人には意味の分かる味です。
けれど、日本人の舌には、まだ翻訳されていない味として届きます。
「何を伝えたい味なの?」
分からないから、警戒する。
↓
警戒するから、まずく感じる。
味覚にも、子どもの頃から覚えてきた母国語があるのです。
最後に

「まずい」のではなく、「知らない味」だった
サルミアッキは、確かに強烈な味です。
甘い飴を想像して食べれば、驚くのも無理はありません。
塩気。
苦味。
独特の刺激。
薬を思わせる後味。
日本のお菓子では、ほとんど出会わない組み合わせです。
「これ、本当にお菓子?」
そう思ってしまうのも自然な反応でしょう。
けれど、その味はフィンランドでは何世代にもわたって親しまれてきました。
子どもの頃のおやつ。
学校帰りに買った一粒。
家族との思い出。
そうした時間まで一緒に味わっている人たちがいます。

同じ飴なのに、ある人は顔をしかめ、ある人は懐かしそうに笑う。
違うのは舌ではなく、その味と過ごしてきた時間なのかもしれません。
だから、サルミアッキは世界一まずい飴ではありません。
僕たちがまだ知らない、誰かにとっての「懐かしい味」だったのです。

