なぜ中世の盾はこんなに形が違うのか?知られざる盾の使い方
はじめに

盾は、形が違えば使い方もまるで違った
「盾なんて、どれも同じでしょう?」
若い兵士が、武器庫に並ぶ盾を見回しました。
丸い盾。
細長い盾。
人が隠れられるほど大きな盾。
片手に収まる小さな盾。
古参兵が、小さなバックラーを差し出します。
「これで矢の雨を防いでみろ」
「無理です」
今度は大盾を指さしました。
「では、あれを持って敵を追え」
「追いつけません」
古参兵は笑いました。
「同じ盾でも、仕事はまるで違う」
中世の盾は、ただ大きさや形が違ったわけではありません。
歩兵の盾。
騎兵の盾。
射手の盾。
剣と一緒に動かす盾。
戦う場所が変われば、守るものも変わります。
では、それぞれの盾は、戦場でどんな役割を持っていたのでしょうか?
※本記事は筆者個人の感想をもとにエンターテインメント目的で制作されています。
円形盾は「壁」ではなく、列の隙間を動かす盾だった

「盾壁を作れ!」
号令とともに、兵士たちが横一列に並びます。
丸い盾が重なり、正面に木の壁ができました。
若い兵士が、ほっと息をつきます。
「これなら、じっとしていれば安全ですね」
その直後です。
「右から槍!」
「えっ!」
「左が空いたぞ!」
「ええっ⁉」
「前の兵が下がる!」
「壁なのに忙しい!」
盾壁は、盾を並べて固まるだけの陣形ではありません。
戦場では、敵も味方も動き続けます。
槍が正面から来るとは限りません。
隣の兵士が押されることもあります。
誰かが攻撃するために盾を開けば、その瞬間だけ穴ができます。
中央の取っ手を握る円形盾は、腕へ固定する盾より自由に動かせました。
前へ出す。
斜めに傾ける。
左右へ寄せる。
敵の攻撃に合わせて、空いた場所をふさいでいきます。

右から槍が来れば、右へ動かす。
隣の兵士が前へ出れば、その後ろへ寄せる。
自分が槍を突き出すときだけ盾を開き、すぐに戻す。
盾壁は、完成したまま動かない壁ではありません。
崩れそうになる形を、兵士たちが絶えず直し続ける陣形でした。
「列を離れるな!」
古参兵が叫びます。
若い兵士が尋ねました。
「少しくらいなら大丈夫では?」
「その少しへ、敵は槍を入れてくる」
若い兵士は、隣の盾へ肩を寄せました。
盾壁で恐ろしいのは、大きな穴だけではありません。
剣先一本が通るほどの隙間でも、敵には十分だったのです。
カイトシールドは、馬上の「見えない死角」を守った

「騎士なら、盾を正面に構えればよい」
若い兵士が得意そうに言いました。
古参兵は馬を指さします。
「乗ってみろ」
若い兵士は馬にまたがり、盾を胸の前へ構えました。
「どうです?」
「左手で盾を持っているな」
「はい」
「手綱は?」
若い兵士は黙りました。
「では、脚を見ろ」
盾の下から、膝とすねが見えています。
「思ったより出ていますね」
「地上では隠れていた場所が、馬に乗ると外へ出る」

カイトシールドは、上部が丸く、下へ向かって細く伸びています。
この長い部分は、見た目を立派にするための飾りではありません。
馬上の騎士は、歩兵のように自由に足を引けません。
膝やすねは馬体の横へ出たままです。
しかも片手では手綱を扱い、もう片方では武器を使います。
盾だけを動かす余裕はありません。
「正面だけ守ればよいのでは?」
「馬は止まったまま戦うとは限らない」
馬が向きを変える。
騎士の体が揺れる。
槍を構えるために上半身が開く。
そのたびに、腰や脚が見えます。
カイトシールドは、体の横へ沿わせるように構えることで、その露出を減らしました。
「長いと扱いにくそうです」
「歩兵の盾と同じ動かし方をしなければいい」
「では、馬に合わせる?」
「そうだ。騎士ではなく、騎士と馬をまとめて守る」
歩兵の盾が人間の体に合わせたものなら、カイトシールドは騎乗した姿に合わせた盾でした。
馬へ乗ったことで増えた弱点を、形の長さで埋めたのです。
パヴィースは「攻撃を防ぐ盾」ではなく、時間をつくる盾だった

クロスボウ兵が矢を放ちます。
「撃ったぞ!」
隣の兵士が叫びました。
「次も撃て!」
「今、弦を引いています!」
「急げ!」
「急いでも、すぐには戻りません!」
クロスボウは強力です。
その代わり、一度撃つと次の矢を放つまでに手順が必要でした。
弦を引く。
矢を載せる。
狙いを定める。
その間、射手はその場から動きにくくなります。
敵の弓兵から見れば、装填中のクロスボウ兵は格好の標的でした。
「こちらを狙っています!」
「隠れろ!」
射手が身を伏せた先に、大きなパヴィースが立っています。
盾の陰で弦を引く。
矢を載せる。
準備ができたら横から身を出して撃つ。
そして、すぐに戻る。
「矢を防ぐための盾ですね」
「半分はな」
「残り半分は?」
「お前が次に撃てるようになるまで待ってくれる」

パヴィースの役目は、攻撃を完全に止めることではありません。
射手が無防備になる時間を、短いあいだ隠すことでした。
戦場によっては、射手とは別の兵士が盾を運びます。
盾を立てる者。
その後ろで装填する者。
準備が整ったら射撃する者。
一枚の盾を、二人で使うこともありました。
「大きすぎて、持ったまま戦えません」
「持ったまま戦う必要はない」
「では、置くのですか?」
「置いて、そこを自分の場所にする」
パヴィースは、腕につける防具というより、必要な場所へ運べる遮蔽物でした。
射手はその後ろで、次の一発を作っていたのです。
小さすぎる盾が、最も細かい技術を必要とした

「これは本当に盾ですか?」
若い兵士が、小さなバックラーを持ち上げます。
「そうだ」
「胸が隠れません」
「隠すための盾ではない」
「矢も止められません」
「矢の雨に持っていく盾でもない」
「では、何を守るんです?」
古参兵は、若い兵士の剣を指さしました。
「その剣を持っている手だ」
バックラーは、大きな盾を小さくしたものではありません。
剣と一緒に使うための小盾です。
敵の剣を押さえる。
自分の手を守る。
攻撃の通り道をふさぐ。
相手の視界へ重ねる。
剣と盾を同じ動きの中で使う。
後ろへ隠れているだけでは役に立ちません。

「右から剣が来ます!」
「右へ出せ」
「次は下です!」
「下へ落とせ」
「今度は突き!」
「前へ押せ」
「忙しすぎます!」
「守れる場所が小さいからな」
バックラーは、広い範囲をまとめて守れません。
その代わり、相手の剣が通る場所へ先回りします。
少し遅れれば、剣が入る。
離しすぎれば、手を狙われる。
前へ出しすぎれば、胴体が空く。
数センチの位置の違いが、そのまま結果へつながります。
こうした技術は、13世紀末から14世紀初頭頃の武術書『I.33』にも描かれています。
写本に登場するのは、重い鎧を着た騎士ではありません。
頭頂部を剃った聖職者が、剣とバックラーを手に、生徒へ技を示しています。
さらに終盤には、ウォルプルギスと呼ばれる女性も現れます。
「なぜ聖職者が剣術を?」
理由は分かっていません。
「この女性は誰です?」
それも分かっていません。
残されているのは、向かい合う姿と、剣とバックラーの動きだけです。
大きな盾なら、攻撃が来る範囲を面で覆えます。
バックラーには、それができません。
だから相手の剣を読み、必要な場所へ正確に置く技術が求められました。
小さな盾に残された武術書は、盾の大きさではなく、使う人間の判断が防御を作っていたことを伝えています。
最後に

盾の向こう側にいた人
戦いのあと。
若い兵士は、武器庫へ戻された盾を眺めていました。
欠けた円形盾。
泥のついたカイトシールド。
矢の跡が残るパヴィース。
手のひらほどのバックラー。
「この盾を持っていた人たちは、怖くなかったのでしょうか?」
古参兵は首を振ります。
「怖かっただろうな」
「それでも前へ出た?」
「盾は、怖さを消す道具ではない」
若い兵士は、小さなバックラーを握りました。
「では、何のために?」
「次の一撃を受けずに済むようにだ」
盾があっても、戦場が安全になるわけではありません。
それでも、隙間をふさぐことはできました。
脚を隠すことも、矢を載せる時間を稼ぐこともできました。
ほんの少しだけ、生き残る可能性を増やせたのです。

「持ち主は、どんな人だったのでしょう?」
古参兵は、盾に残った傷を見ました。
「生きて帰りたかった人だろう」
誰が握っていたのか?
その日、無事に帰れたのか?
答えは残されていません。
それでも古い盾の傷を見ると、そのすぐ後ろに、息を殺して立っていた誰かの姿が浮かびます。
盾が守ろうとしていたのは、英雄ではありません。
ただ家へ帰ろうとしていた、一人の人間だったのです。
おまけの4コマ


