ゲームなんかのドラゴンのように火を吐くことは生物的にあり得るのか?
はじめに

ドラゴンと聞いて、何を思い浮かべるでしょうか?
巨大な翼。
鋭い牙。
そして、口から吹き出す真っ赤な炎。
ここまでは、多くの人が同じイメージを思い浮かべるのではないでしょうか?
ゲームでも映画でも、ドラゴンが火を吐くことに疑問を持つ人はほとんどいません。
「ドラゴンだから火くらい吐くでしょ」
そんな前提で物語は進みます。
ところが、その能力を現実の生き物として考え始めると、思った以上に大きな壁が見えてきます。
ライターにはガスがあります。
ガスコンロにはガス管があります。
火炎放射器には燃料タンクがあります。
では、ドラゴンは一体どこで炎を作っているのでしょう?
この素朴な疑問に答えようとすると、「火を吐く」という能力が、実はとても贅沢な仕組みだったことに気付かされます。
※本記事は筆者個人の感想をもとにエンターテインメント目的で制作されています。
炎は「熱い息」では生まれない

火を吐くと言われると、「ものすごく熱い息なんだろう」と思ってしまいます。
ところが、それだけでは炎にはなりません。
例えば、ドライヤーの熱風はかなり熱くなりますが、火は出ません。
炎になるためには、
「燃料」
「酸素」
「点火」
という三つがそろう必要があるのです。
焚き火を思い浮かべると分かりやすいでしょう。
薪だけ置いても燃えません。
空気を送り込み、最後に火花を当てて初めて炎になります。

つまり、ドラゴンも同じです。
まず可燃性ガスを体内で作る。
↓
そのガスを口まで送り出す。
↓
空気と混ぜる。
↓
そして最後に火をつける。
そこまでやってようやく一回、炎を吐くことができます。
「熱い息」どころの話ではありません。
火炎放射器を一台、丸ごと体の中へ組み込むような仕組みが必要になるのです。
自然界には”ドラゴン候補”がいた

ここで「そんな生き物はいないでしょう」と思うかもしれません。
ところが、自然界は時々こちらの予想を超えてきたりします。
その代表が、ボンバルディアビートルという小さな甲虫です。
体長はわずか1〜2センチほど。
見た目はどこにでもいそうな虫ですが、その防御方法は驚くほど本格的です。
敵に襲われると、体内に別々に保存していた二種類の薬品を反応室へ送り込みます。
すると激しい化学反応が起こり、およそ100℃にも達する高温の液体を勢いよく噴射するのです。
しかも、一度だけでは終わりません。
体内では細かな爆発が何度も繰り返され、「パンッ、パンッ、パンッ」と連続して発射されます。
もちろん炎ではありません。
しかし、「体の中で化学反応を起こし、高温のものを飛ばす」という発想は、驚くほどドラゴンの炎に近いものがあります。
空想の能力だと思っていたものが、小さな虫によって少しだけ現実へ引き寄せられるのです。
本当に火を吐くなら、体は化学工場になる

では、この虫がもう一歩進化して、本当に炎まで扱えるようになったらどうなるのでしょう?
必要になるものを考えてみます。
まず、可燃性ガスを大量に作る器官。
そのガスを安全にためる袋。
口まで送り出すための通路。
そして、火花を飛ばす点火装置。
これだけでも十分大がかりですが、まだ終わりではありません。
もし炎が逆流したらどうなるでしょう?
口の中だけでは済みません。
肺まで燃えてしまいます。
そのため、逆火を防ぐ安全装置まで必要になります。
燃料を作り、運び、点火し、安全まで管理する。
ここまでくると、ドラゴンは巨大なトカゲではありません。
まるで工場が、そのまま歩き始めたような生き物です。
現実の生物がそこまで複雑な仕組みを進化させるのは、かなり難しいと考えられています。
空を飛ぶ能力とは、驚くほど相性が悪い

しかも、ドラゴンにはもう一つ有名な能力があります。
空を飛ぶことです。
実は、この能力がさらに問題を難しくします。
空を飛ぶ生き物は、とにかく軽くなければいけません。
鳥の骨がスカスカなのも、少しでも体を軽くするためです。
一方、火を吐くには大量の燃料を持ち、ガス袋を備え、耐熱器官まで発達させる必要があります。
つまり、
飛ぶためには軽くしたい。
火を吐くためには重くしたい。
必要とされる進化の方向が、きれいに反対を向いているのです。
空を飛ぶために荷物を減らしたいのに、背中へ大きなリュックを背負うようなものです。
現実の生き物なら、どちらか一方だけを選ぶ可能性が高いのではないでしょうか?
空を飛びながら炎まで吐くドラゴンは、現実離れしているからこそ魅力的に映るのでしょうね。
最後に

空想の世界では、ドラゴンはごく自然に炎を吐きます。
けれど現実の生物学は、その「当たり前」の裏側に、想像以上に高い壁があることを教えてくれました。
一方で、体の中で化学反応を起こし、高温の液体を噴射する虫や、強力な電気を生み出す魚など、現実の生き物たちも決して負けてはいません。
派手さではドラゴンに及ばなくても、進化という長い時間の中で、それぞれが驚くような能力を手に入れてきました。
そう考えると、本当に不思議なのは「ドラゴンが存在しないこと」ではないのかもしれません。
むしろ、小さな虫や魚たちが、ここまで精巧な仕組みを自力で進化させてきたという現実のほうが、十分すぎるほど驚きです。
ドラゴンの炎をきっかけに生き物の世界をのぞいてみると、空想に負けない不思議が、すでに足元にたくさん転がっていることに気付かされます。


