中世の兵士たち
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騎士が主役だったのに?――槍・弓・クロスボウ・火器が「歩兵の時代」を連れてきた話

佐藤直哉(Naoya sato-)
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はじめに

もし14世紀に「戦場の求人サイト」があったら、どんな募集要項が並んでいたでしょうか。

《重装騎士:装備自己負担/馬必須/幼少期からの訓練歓迎/維持費高》

《弓兵:長期訓練必須/腕力に自信のある方》

《槍兵:経験不問/団体行動できる方》

いちばん人数をそろえやすいのは誰なのか?
中世ヨーロッパの戦争は、この現実的な問いから逃げられませんでした。

戦場の主役が騎士から歩兵へ移っていった背景には、勇気や血筋よりも「技術」「コスト」の問題がありました。

どれだけ強いかではなく、どれだけ再現できるか?
どれだけ維持できるか?

その積み重ねが、戦争の姿を変えていきます。

※本記事は筆者個人の感想をもとにエンターテインメント目的で制作されています。

「強い武器」より先に「秩序」が揺れる

■クロスボウの衝撃

1139年、第二ラテラノ公会議(教会法典の一部)はクロスボウの使用を禁じました。

宗教会議で名指しされる武器というのも珍しい話です。
それだけ脅威だったということです。

鋼製クロスボウは巻き上げ装置で強い張力を生み出し、短く重いボルトを高速で射出します。

近距離なら鎖帷子を貫き、条件がそろえば板金鎧にも深刻な損傷を与える力がありました。

問題は威力だけではありません。

数週間から数か月の訓練で、重装騎士を倒し得る兵を育てられる。

幼少期から訓練を重ね、高価な装備を整えた騎士と、短期間で育成された歩兵が同じ戦場に立つ。この構図は、身分と武力が結びついていた社会にとって衝撃でした。

但し、禁令が出ても、使用は止まりません。
強く、育てやすく、現実的だったからです。

槍:地味だが合理的

■歩兵の本命

歩兵の進化を語るなら、まず槍です。

槍は目立ちません。しかし理にかなっています。

  • 作りやすい(木の柄と金属の穂先)
  • 比較的安価(高価な馬や全身鎧を必要とせず、農民層でも装備可能)
  • 集団で使うと威力が増す(横に並べば穂先が壁のように連なり、味方同士がぶつかりにくく前方の敵に集中できる)

特に三つ目が重要です。

槍は振り回す武器ではなく、そろえて構える武器です。
横一列に並んで穂先を前に向けると、前方に連続した「突きの面」が生まれます。
味方同士が干渉しにくく、動きも単純です。
敵はその面に正面からぶつかることになります。

さらに後列の兵も、前列の肩越しに槍を差し出せます。
前の列が倒れてもすぐに交代できる。
人数が増えるほど前面の圧力は高まり、隊形が崩れにくくなります。

個人の腕前よりも、隊列を保てるかどうかが強さを決める。

この仕組みは、騎兵突撃に対して特に有効でした。
長槍を密集して突き出された馬は、本能的に減速します。
馬が止まれば、騎士の勢いも失われます。

英雄の一撃より、整った隊形。

槍はそれを証明しました。

弓:強力だが、量産しにくい

■多用したいが訓練時間に問題あり

イングランドのロングボウは、射程と連射で名を上げました。
有効射程は約140〜300メートルともされ、引きの強さも非常に大きい。
矢が一斉に降り注ぐ光景は、重装の騎士にとっても無視できない脅威でした。

ただし、この話は単純ではありません。

この武器を戦場レベルで扱える兵を育てるには、長い時間が必要です

熟練弓兵は幼少期から弓を引き続け、体そのものを鍛え上げていました。
腕力だけでなく、姿勢、持久力、反復練習。
その積み重ねがあって初めて、毎分10本以上の矢を安定して放てるのです。

武器そのものは比較的安価でも、弓兵という“人材”は高価です。
急に増やすことはできません。
明日までに百人追加、というわけにはいかないのです。

クレシーやアジャンクールで弓兵が威力を発揮したのは事実です。
しかしそれは、弓が魔法の武器だったからではありません。
地形を選び、障害物を設け、布陣を整え、補給を確保したうえで、訓練された弓兵がそろっていたからこそ成立しました。

弓は確かに強力です。
ただし、条件が整ってこそ最大の力を発揮する武器でもあります。

この「強いが増やしにくい」という性質が、歩兵のあり方を次の段階へと進めていくことになります。

クロスボウ:訓練時間を短縮する武器

■強いが欠点も多い

ロングボウが「長年鍛えた身体」で戦う武器だとすれば、クロスボウは「仕組み」で戦う武器です。

引き金を引けば、張力は機械が生み出す。
射手の腕力に左右されにくく、威力は安定しています。
連射速度はロングボウより遅いものの、一発の重さは十分です。
狙いを定め、撃つ。
構造は単純で、再現性が高い。

さらに実戦では、パヴィス(大型盾)と組み合わせて運用されました。
射手の前に盾を立て、装填係が次の一発を準備する。
射手は守られながら撃ち、装填係は黙々と次を整える。

まるで二人三脚のようですが、やっていることは極めて実務的です。

一人で英雄的に戦うのではなく、役割を分けて効率を上げる。

誰が守るのか。誰が撃つのか。誰が前線を維持するのか。

こうしてクロスボウは、武器というより「チーム単位の戦い方」を広めていきました。編制そのものが戦術へと変わっていったのです。

火器:威力よりも「再現性」

■現代の主力、でも当時は課題が多い

初期火器は決して万能ではありませんでした。
命中率は安定せず、発射速度も遅い。
雨が降れば火薬は湿り、整備を怠れば不発も起きる。

それでも広まっていきます。

なぜか?

理由は「兵士を作りやすい」からです。

弓のように幼少期から体を鍛え上げる必要はありません。
特定の筋力や骨格の変化を前提にしなくてもよい。
必要なのは、手順を覚え、号令に合わせて動作をそろえることです。

装填する、構える、点火する。
この一連の動きを反復すれば、一定の戦力になります。

武器に合わせて肉体を長年かけて作り替える必要がない。
ここが決定的でした。

長年鍛えた弓兵を育てるより、手順を身につけた射手を増やす方が早い。
徴集した兵を比較的短期間で戦列に並べられる。
戦争が長期化し、兵の補充が常に必要になる時代、この差は無視できません。

さらに槍兵と組み合わせれば、役割分担がはっきりします。
前列のパイク兵が敵の突撃を止め、その背後から射手が撃つ。
接近戦と射撃が分業され、隊形全体で戦う形が完成します。

派手さはありません。
しかし、同じ動きを何百人、何千人がそろえて行える。
身体能力のばらつきに左右されにくい。

この「そろえやすさ」こそが、火器の本当の強さでした。

こうして歩兵だけで戦場を構成できる体制が整っていきます。

国家の規格化:歩兵時代を決定づけた制度

どれだけ優れた武器があっても、人数がそろわなければ意味がありません。
そこで登場するのが「制度」です。

1181年のアサイズ・オブ・アームズ、1285年のウィンチェスター法は、資産に応じて持つべき武器や防具を定めました。

財産が多い者は鎧と武器をそろえる。
そこそこなら軽装備。
行政が装備内容を決める。

かなり現実的です。

武力は個人の誇りというより、管理対象になります。
誰が何を持つかが明文化されれば、動員も計算できる。
装備が標準化されれば、補給も整えやすい。

戦場が少しずつ、感情ではなく仕組みで動くようになります。

さらに15世紀には、歩兵向けの既製鎧が広まりました。
特別注文の一式より、一定品質の装備をまとめて用意する。

名騎士の逸話より、整然と並ぶ歩兵の列。

戦争の重心は、静かに移っていきました。

最後に

技術が変えたもの

弓は強い。
ただし、育てるのに時間がかかる。

クロスボウは威力を保ちながら、訓練期間を縮める。
槍は並ぶことで力を発揮する。
火器は動作をそろえることで戦力を量産できる。

そして、そこに制度が加わります。

装備を決め、動員を決め、役割を決める。

戦場で問われるものが変わりました。

家柄か。
勇敢さか。

それとも、同じ動きを何百人が繰り返せるか。

答えは徐々に明らかになります。

騎士の物語が消えたわけではありません。
馬も鎧も、しばらくは健在です。
ただ、戦場の中心に立つ存在が少しずつ入れ替わっていきました。

一人の名声より、整った隊列。
一撃の武勇より、崩れない編制。

中世ヨーロッパで起きたのは、武器の進歩というより「戦い方の基準」が変わる出来事でした。

派手な革命ではありません。

しかし気づいたときには、戦場の景色はすっかり別のものになっていたのです。

歴史はいつも、声の大きい者ではなく、数をそろえた者の側へ静かに傾いていきます。

おまけの4コマ

ABOUT ME
佐藤直哉(Naoya sato-)
佐藤直哉(Naoya sato-)
ブロガー/小説家
文章を書くことを楽しむ自称・小説家です。
歴史や文化、日々の暮らしに潜む雑学を題材に、小噺を発信しています。
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