本の話(教養篇)
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眠るために頑張った結果、眠れなくなりました。――『不夜脳』が教える睡眠の不合理

佐藤直哉(Naoya sato-)
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はじめに

眠れない人ほど、睡眠のことばかり考えている

深夜1時。

布団に入ってから、もう1時間。

「早く寝ないと、明日の仕事に響く……」

目を閉じます。

……眠れません。

時計を見ます。

「あと5時間しか寝られない!」

また目を閉じます。

……眠れません。

「あと4時間58分!」

どうやら僕は、睡眠時間を減らしながら、睡眠時間の計算だけは正確に続けているようです。

そんな眠れない人間に、驚くようなことを教えてくれる本があります。

脳神経外科医・東島威史氏の著書、

『不夜脳 脳がほしがる本当の休息』

この本が投げかける疑問は、なかなか挑発的です。

「寝ないと脳に悪い」は、本当なのか?

……ちょっと待ってください。

こちらは健康のために、毎晩必死で眠ろうとしているんです。

その努力、ひょっとして方向を間違えていました?

※本記事は書籍や関連研究をもとに、筆者の解釈と創作を交えて制作しています。会話や人物の反応は演出であり、研究結果を再現したものではありません。

「寝ないと脳に悪い」は本当にウソなのか?

「脳のためには、しっかり寝ましょう」

テレビでも、本でも、病院でも。

何度となく聞いてきた言葉です。

ところが『不夜脳』は、ここに疑問を投げかけます。

体を休ませることと、脳を休ませることは、同じなのか?

そもそも脳は、眠っている間も活動しています。

記憶に関わる働きも、体の状態を調整する働きも続いているのです。

つまり、睡眠は脳の電源を切ることではありません。

「よし、寝るぞ! 脳もゆっくり休んでくれ」

「了解しました。では、記憶の整理を始めます」

「……え? 休まないの?」

どうやら脳には、眠っている間にしかできない仕事もあるようです。

人間が仕事を終えて眠ると、今度は脳が仕事を始める。

……脳だけ、働き方改革の対象外なのでしょうか?

ただし、本書は睡眠そのものが不要だと言っているわけではありません。

実際、睡眠不足が長く続けば、集中力や判断力が低下することは研究でも確認されています。

本書が注目するのは、脳の健康には、睡眠だけでなく適切な刺激も大切ではないかという考え方です。

寝るか、寝ないか。

そんな二択ではなく、起きている時間をどう過ごすか。

どうやら脳の健康は、睡眠時間だけでは語れないようです。

脳の掃除は夜勤なのか、日勤なのか?

人間の脳には、活動によって生じた老廃物を排出する仕組みがあります。

2013年、アメリカの研究者たちが興味深い実験を発表しました。

マウスの脳を調べたところ、睡眠中に老廃物の排出が促進されていたのです。

「なるほど! 脳の掃除は寝ている間に行われるんだ!」

これなら睡眠の重要性も納得できます。

ところが……。

2024年、別の研究チームが反対の結果を発表しました。

こちらもマウスを使った実験です。

脳に入れた蛍光物質の動きを調べると、睡眠中のほうが排出は少なくなっていました。

「えっ、起きているときのほうが掃除できるの!?」

ところが話は終わりません。

2025年には、別の研究者たちがその実験方法や解析に異議を唱えました。

研究者同士で、脳の掃除について議論が続いているのです。

ただし、この研究結果は、「寝なくても脳は大丈夫」という意味ではありません。

実験方法も調べた物質も異なるため、どちらの研究が正しいのか、まだ結論は出ていないのです。

そもそも、どちらもマウスを使った実験。

人間の脳でも同じことが起こるとは限りません。

それにしても、少し不思議な話です。

人間は、脳の掃除のために眠ろうとしています。

一方、その仕組みを研究する科学者たちは、まだ結論を出せていません。

ここは早く決着をつけてほしいところです。

こちらは今夜、何時に清掃員が来るのかも分からず、布団の中で待っているんですから。

脳は、自分が疲れていることにも気づかない

「俺は6時間寝れば十分だ!」

そんな人を見たことはありませんか?

2003年、アメリカで睡眠時間を制限する実験が行われました。

健康な成人48人を対象に、毎晩ベッドで過ごせる時間を4時間、6時間、8時間に分けて14日間調べたのです。

すると、4時間と6時間のグループでは、日を追うごとに認知機能の成績が低下しました。

ところが、本人たちが感じる眠気は、成績の低下ほど大きく増えませんでした。

つまり、頭の働きが落ちているのに、自分では十分に気づかないことがあったのです。

ある朝。

男性が自信満々に言います。

「昨日も6時間しか寝てないけど、俺は絶好調だ!」

ところが実際には、集中力が落ちているかもしれません。

では、なぜ気づかないのでしょうか?

自分の調子を判断しているのも、自分の脳だからです。

考えてみれば、ずいぶん奇妙な仕組みです。

判断力が低下した脳が、自分の判断力を評価している。

しかも評価は、本人の自己申告。

これでは、試験を受けた生徒が自分で採点するようなものです。

「満点です!」

……答案用紙を見せてもらえませんか?

眠ろうと頑張るほど、眠れなくなる

眠れない夜。

人間は何をするでしょうか?

「絶対に寝るぞ!」

目を閉じます。

「余計なことは考えない!」

呼吸を整えます。

「今度こそ寝る!」

……眠れません。

もはや睡眠ではなく、精神修行です。

実は、眠ろうと努力すること自体が、不安につながる場合があります。

2003年、イギリスの研究者たちは、寝つきに悩む34人を対象に実験を行いました。

調べたのは「逆説的意図」と呼ばれる方法です。

簡単にいえば、眠ろうと無理に頑張るのをやめる考え方。

その結果、実践したグループでは、睡眠への努力や不安が減少しました。

ただし、客観的な睡眠測定では明確な改善が確認されなかったため、必ず眠れる方法というわけではありません。

それでも、この話には妙な説得力があります。

仕事では、頑張れば成果が出ることもあります。

勉強だって、努力が役に立つことがあります。

ところが睡眠では、頑張ることが逆効果になる場合があるのです。

「眠れ! 眠れ! 眠れ!」

そう命令するほど、目が冴えてしまう。

考えてみれば当然かもしれません。

人間は眠るという無意識の行為にまで、努力と根性を持ち込もうとしているのですから。

なぜ脳は、大切なことより黒歴史を覚えているのか?

朝。

「あれ? 昨日の夕飯、何食べたっけ?」

思い出せません。

ところが夜、布団に入ると……。

「そういえば中学2年の文化祭で……」

やめてください。

今、それを再生する必要はありません。

しかも映像が鮮明です。

どうして脳は、昨日の夕飯を忘れて、十数年前の失敗を覚えているのでしょうか?

実は、脳にとって忘れることは、単なる失敗ではありません。

記憶の研究では、脳が情報をすべて同じように保存するのではなく、重要な情報を強めたり、不要な情報を弱めたりする働きが知られています。

つまり、記憶には整理も必要なのです。

ただし、すべての物忘れが正常な整理というわけではありません。

それでも、脳には少し注文があります。

「明日の予定は覚えておいてください」

「承知しました」

「昔の恥ずかしい失敗は忘れてください」

「そちらも大切に保管しております」

……どういう保存基準なんですか?

どうやら僕の脳には、優秀な編集者がいるようです。

ただし、編集方針がまったく合いません。

脳外科医が麻雀に夢中になる理由

『不夜脳』の著者、東島威史氏は脳神経外科医です。

そして、プロ麻雀士でもあります。

脳にメスを入れる人が、麻雀卓では牌を切っているのです。

なかなか珍しい経歴ですよね。

東島氏は、脳の健康にとって大切なのは、眠ることだけでなく、適切な刺激を与えることだと考えています。

本書では、運動や知的活動など、脳を働かせる方法についても取り上げています。

麻雀には、さまざまな判断が必要です。

相手の動きを読む。

捨てられた牌から予測する。

限られた情報で決断する。

そして……。

「よし! これで勝てる!」

と思った瞬間、予想外の展開で負ける。

もちろん、麻雀をすれば誰でも頭がよくなると証明されたわけではありません。

それでも、考えたり、予測したりする活動が脳への刺激になるという考え方は興味深いものです。

麻雀だけではありません。

読書、音楽、散歩、新しい趣味。

自分の興味に合わせて、頭や体を動かす方法はいろいろあります。

脳を元気にするために、難しい問題集ばかり解く必要はないのです。

何より、楽しめることが大切でしょう。

もっとも、この場合でも少し問題があります。

脳の健康のためにゲームを始めたはずなのに、気づけば深夜3時。

脳を鍛えるつもりが、睡眠時間を削っていました。

……健康というものは、なかなか難しいですね。

脳を休ませるために、できること

仕事で疲れた夜。

ソファに寝転び、スマホを開きます。

動画を1本。

もう1本。

あと1本。

「今日は疲れたから、ゆっくり休もう」

そう言いながら、画面を見続けます。

気づけば1時間。

体は動かしていないのに、頭の中には次々と情報が入ってきます。

……これは休息なのでしょうか?

『不夜脳』では、脳に適切な刺激を与えることの大切さを説いています。

ただし、刺激は多ければ多いほどよい、という意味ではありません。

眠る前なら、刺激を抑えて落ち着ける環境を作ることも重要です。

例えば、こんな方法があります。

  • 寝る前はスマホの強い光や刺激の多い動画を控える
  • 部屋を暗くして、落ち着ける環境を作る
  • 睡眠時間だけでなく、日中の活動や運動も見直す
  • 眠れないまま布団の中で頑張り続けない

これらは睡眠研究や公的な睡眠ガイドでも紹介されている考え方です。

眠れない状態が長く続いたり、日中の生活に支障が出たりする場合は、医療機関に相談することも大切です。

ところで、

脳を休ませるには、刺激を上手に調整することが大切です。

例えば、寝る前に静かな音楽を流してみます。

「うん、これなら落ち着いて眠れそう」

ところが、次に流れてきたのは大好きな曲。

「おっ、この曲いいな!」

思わず口ずさみます。

さらに次の曲。

「これも好きなんだよな!」

気づけば、すっかり目が冴えています。

脳を休ませるために音楽を流したはずなのに、いつの間にか脳を楽しませていました。

どうやら人間には、刺激を与える能力だけでなく、楽しいところでやめる能力も必要なようです。

最後に

眠ることにまで、努力を求められる人間

人間は、健康のために睡眠を大切にしています。

睡眠時間を記録し、睡眠の質を調べ、よく眠れる方法を探します。

「今日は絶対に8時間寝るぞ!」

そう決意して布団に入ります。

1時間後。

「あと7時間しか寝られない!」

さらに1時間後。

「まずい! あと6時間だ!」

健康のために眠ろうとしているのに、眠れないことがストレスになっています。

そこで、もっとよく眠れる方法を調べ始めます。

スマホで検索。

睡眠の専門書を読む。

眠れない原因を分析する。

そして、ついに睡眠について詳しくなりました。

ただし、今夜も眠れていません。

今回紹介した書籍

『不夜脳 脳がほしがる本当の休息』

  • 著者:東島威史
  • 出版社:サンマーク出版
  • 発売日:2025年9月24日

睡眠の常識を別の角度から見直したい人や、脳の休息と刺激の関係に興味がある人におすすめの一冊です。

ABOUT ME
佐藤直哉(Naoya sato-)
佐藤直哉(Naoya sato-)
ブロガー/小説家
人間は、幸福を求めて不幸になり、平和を守るために争い、自由を手に入れてから誰かの指示を待つ。
そんな人間たちの奇妙な行動を、短い物語と少々意地悪な言葉の定義で記録した、役に立たない雑学記事。
なお、この記事を読んでも人間の欠陥は改善されません。
それは著者も同じだからです。
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