日常のふしぎ
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なぜ人はわざわざ口の中を火事にするのか──激辛ラーメンに並ぶ僕たちの正体

佐藤直哉(Naoya sato-)
<景品表示法に基づく表記>当サイトのコンテンツ内には商品プロモーションを含みます。

はじめに

赤いスープがぐつぐつと湯気を立てています。
湯気の向こうには、見るからに危険そうな唐辛子の山。
レンゲですくった瞬間、鼻の奥がツンと刺激され、すでに額にはうっすら汗がにじみます。

……なのに、なぜかその一杯を前にニヤニヤしている自分がいるんです。

おかしい。
完全におかしい。

冷静になって考えてみましょう。
「口の中が燃える」と分かっている食べ物に、なぜ僕たちはわざわざお金を払うのか。

普通なら避けるはずです。
火事の現場に自ら突っ込む人はいませんし、
熱々のフライパンを素手で触る人もいません。
……ですよね?

それなのに、唐辛子だけはなぜか特別待遇。
VIP扱いです。

人は今日も元気に「激辛◯倍」に挑み、
「やばい」
「無理」
「死ぬ」
と言いながら、なぜか完食して帰っていきます。
もう言動と行動が完全に噛み合っていません。

どうやら僕たちは、
「痛いものを避ける生き物」ではなく、
「痛いと分かっていて、あえてダイブしていく生き物」なのかもしれません。
……我ながら、なかなか不思議な生態です。

※本記事は筆者個人の感想をもとにエンターテインメント目的で制作されています。

辛さは味じゃない。ほぼ事故です

まず大前提からいきましょう。

実は「辛い」は味覚ではありません。
甘味・塩味・酸味・苦味・うま味
──この五大味覚のどれにも属していないんです。

え、仲間外れ?
そう、完全にアウトロー。

辛さの正体は、ほぼ痛み
ここ、大事なので二度言います。
ほぼ痛みです。
おいしさの顔をしたトラップです。

唐辛子に含まれるカプサイシンという成分は、舌の中にある「熱さ・痛みセンサー」を刺激します。
このセンサー、43℃以上の高温にも反応するため、
脳は一瞬で
「熱っ!」
「危険!」
と判断。

つまり脳内では、

「このラーメン、うまい!」ではなく
「口の中で火災発生!避難してください!」と警報が鳴り響いているわけです。

英語で「辛い」「熱い」もどちらも“hot”なのは偶然ではありません。
同じセンサーで感じているからです。
言語まで共犯。

それなのに僕たちは、わざわざ自分で火災報知器を鳴らし、自分から非常ベルを押しによく行くのです。

……要するに、危険アラートを自分で連打して満足している生き物です。

痛いのに気持ちいいというバグ

ではなぜ、そんな危険行為を人は楽しんでしまうのでしょうか。
……いや、楽しむどころか「また行こ」とか言い出すんでしょうか。
自分で自分がよく分かりません。

ここで登場するのが、脳内のご褒美システムです。

辛さという刺激を受けると、脳は即座に「これはストレス案件!」と判断し、
それをなだめるためにβ-エンドルフィンという物質を分泌します。

これはいわゆる「脳内麻薬」
鎮痛作用があり、ふわっとした多幸感をもたらします。
……つまり、口の中が燃えているのに、なぜか気分はご機嫌という謎現象が発生します。

さらにその快感を「ご褒美だ」と認識した脳は、
ドーパミンまで放出してくれます。
もう完全にボーナスステージです。

するとどうなるか。

「痛い」→「気持ちいい」→「もっと欲しい」

という謎の快感ループが完成。
さっきまで「無理無理!」と言っていた口が、もう次の一口を探しています。
さっきの僕、どこ行った。

これは心理学では「無害なマゾヒズム(benign masochism)」と呼ばれます。
ジェットコースターやホラー映画と同じカテゴリです。

危険っぽいけど実は安全。
だからこそスリルを楽しめるんですね。

つまり激辛は、
口の中で開催されるミニ遊園地というわけです。
入場料は、あなたの舌です。

辛党はだいたい刺激中毒

実は研究によると、辛いものが好きな人は 「刺激追求型」の性格傾向が強いことが分かっています。

簡単に言うと、

・普通じゃ物足りない
・新しい刺激が欲しい
・ちょっと危険な方が燃える

こういうタイプです。
たとえるなら、休日にわざわざ刺激を探しに行くアクティブ派の人たちです。

平凡な日常にスパイスを振りかけたい人間は、 料理にもスパイスを振りかけがち。
「今日も平和だなあ……よし、あえて一番辛いやつを選んで刺激を足そう」みたいな発想になります。

激辛に挑む人の目がキラキラしているのは、
「戦い」に向かう戦士のそれに近いです。
メニュー表を見ているだけなのに、もう気分はラスボス戦。

彼らは唐辛子と戦っているのではありません。
退屈と戦っているんです。ついでに自分の限界とも。

汗だくになるのは人類の知恵でした

世界を見渡すと、辛い料理は暑い地域に多く見られます。

インド、タイ、メキシコ、四川……
どこも「え、そんなに入れる?」と二度見したくなるレベルで唐辛子を投入してきます。
もはや調味料というより主役です。
赤い方が多い。

でもこれ、ただの根性論ではありません。
ちゃんとした理由があります。

まず辛いものを食べると汗が出ます。
汗が蒸発すると体温が下がります。
つまり体の中から作動する天然エアコンです。
電気代ゼロ。

さらにスパイスには抗菌作用があり、
高温多湿で食材が腐りやすい環境では、
食中毒を防ぐ役割も果たしていました。

冷蔵庫のなかった時代、 唐辛子は「命を守る調味料」
ピリ辛の裏に、実はサバイバルな理由が隠れていたわけです。

つまり激辛文化は、
「好きだから食べてた」だけじゃなく、
「食べないと生き残れなかった」
知恵の結晶でもあったということですね。

口の中で起きる小さな災害

ここで一度、カメラをぐっと寄せてみましょう。

真っ赤な麻婆豆腐を一口。

――もう戻れません。

舌に触れた瞬間、ピリッと電流が走ります。
まるで口の中にコンセントを差し込んだみたいな衝撃。
次の瞬間、じわじわと熱が広がり、
口内の空気が一気にサウナ化します。しかも出口なし。

喉が熱い。
唇が熱い。
耳の奥まで熱い気がする。
……耳、関係ありましたっけ?

額から汗が噴き出し、
鼻水がなぜか流れ出し、
なぜか笑っている自分がいるんです。
いや、笑ってる場合じゃないんですが。

「痛い。無理。やばい。でもうまい。」

この感情の大渋滞が起きる瞬間、
人はだいたい恋に落ちています。
相手はもちろん、唐辛子です。

健康に良さそう、という言い訳

もちろん人は理屈も欲しがります。

「辛いものって代謝にいいらしいよね」
「脂肪燃焼するらしいよ」
「アンチエイジングにもいいとか」

そう言いながら、今日も激辛ラーメンに並ぶわけです。
……ええ、分かっています。たぶん本音は「うまいから」なんですけどね。

実際、カプサイシンには血行促進や食欲増進などの作用があります。
体がポカポカしてくるのも事実。

ただし、何事も過ぎたるは及ばざるが如し。
胃が弱い人にとっては、健康どころか普通に罰ゲームになります。

健康のために食べているのか、
言い訳のために健康を持ち出しているのか。
その境界線は、だいたい唐辛子で赤く染まっています。
……たぶん今日も、僕たちは自分に都合のいい理由を添えて火を食べています。

最後に

それでも人は火を食べます

結局のところ、辛いものを食べる理由はひとつではありません。

生理の仕組みがあって、脳のご褒美があって、性格のクセがあって、文化の積み重ねがある。

しかも最後に「ちょっと危険なものに惹かれる」という、人間らしいどうしようもなさまで乗っかってきます。
盛りだくさんです。

だから唐辛子は、ただの調味料ではありません。

それは小さな赤い炎であり、日常に灯るキャンプファイヤーであり、退屈な毎日に投げ込まれる導火線。
……ええ、食べ物の話をしているはずなのに、なぜか比喩が物騒になってきました。

僕たちは今日も、その火をレンゲにすくい、自分の口へ運んでいきます。
燃えると分かっていて。それでも、ちょっとだけ生きている実感が欲しいから。

赤いスープの底に沈んだ唐辛子は、きっとこう思っているはずです。

「人間って、つくづく面白い生き物だな」と。

ABOUT ME
佐藤直哉(Naoya sato-)
佐藤直哉(Naoya sato-)
ブロガー/小説家
文章を書くことを楽しむ自称・小説家です。
歴史や文化、日々の暮らしに潜む雑学を題材に、小噺を発信しています。
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