ゲームの話
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なぜ勇者は黙っているのか?——ゲーム主人公“無口”の謎を追え

佐藤直哉(Naoya sato-)
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はじめに

黙って剣を振る男の正体

暗い洞窟の奥。
ゴブリンがこちらをギロリと睨み、湿った岩肌からは水滴がぽたり、ぽたり。
たいまつの火はパチパチと音を立て、焦げた匂いが鼻をかすめる。
心臓はドクン、ドクンと自己主張を始め、手のひらはコントローラーに吸い付いたまま、じっとり汗ばんでいる。

……ここ、完全に修羅場です。

そのとき、画面の中の勇者はというと――何も言わない。

「うおお!行くぞ!」とも言わなければ、「ちょ、待って無理無理」とも言いません。

深呼吸すらしません。
ただ、無言で剣を構え、すっと一歩踏み出します。

……いや、君しゃべらんのかい!

こっちは心拍数140超え、手汗MAX、実質スポーツしてるレベルなのに、当の本人は仏像みたいな顔で無言行進。

現実世界なら確実に「大丈夫?酸素足りてる?」と声をかけられる案件です。

でも、ちょっと待ってください。

もしかするとこの沈黙、ただの無愛想ではなく、ゲームの面白さをブーストさせるために仕込まれた“高度な演出”だとしたら?

黙っているからこそ、こちらの心臓の音が聞こえる。
黙っているからこそ、「自分がそこに立っている」気がしてくる。

……そう考えると、この無言の勇者、実はめちゃくちゃ仕事しているのではないでしょうか。

※本記事は筆者個人の感想をもとにエンターテインメント目的で制作されています。

無口はサボりじゃない

「主人公がしゃべらない=手抜き」

……そんなイメージをお持ちの方、正直けっこう多いのではないでしょうか?

たしかに、昔のゲームは容量が少なく、ボイスを入れたくても入れられなかった、という事情がありました。

ところがどっこい、現代のゲームはフルボイス当たり前、ムービーは映画並み、もはやハードはハリウッド級です。

それにもかかわらず、無口主人公は今日も元気に最前線で戦っています。
現役バリバリです。
引退の気配ゼロです。

となりると、これはもう「仕方なく」ではありません。

むしろ堂々たる設計思想なのではないでしょうか。

ゲームデザインの研究では、サイレント主人公を次のように分類しています。

  • 投影型(projective):プレイヤーが感情や人格を投影するタイプ
  • 表現型(expressive):キャラクター自身が感情表現をするタイプ

無口主人公は、前者の「投影型」に該当します。

つまり彼(彼女)は、
プレイヤーの分身であり、器であり、キャンバスなのです。

……キャンバスですよ?
美術館に飾られていそうな響きではありませんか。

白紙のノートに、あなたの気持ちを自由に書き込めるように。

無口な主人公とは、プレイヤーの想像力を全力で信頼している、実に懐の深い存在なのです。

あなたの声でしゃべる勇者

無口主人公の最大の武器は、「脳内ボイス」です。

選択肢を選ぶとき、皆さんは無意識のうちに、頭の中で主人公にしゃべらせていませんか?

「ここは助けるしかないだろ」
「いや、金が先だな」
「すみません、それは遠慮しておきます」

――と、画面の中では沈黙しているのに、頭の中では会議室レベルで発言が飛び交っています。おやおや、ずいぶん饒舌ではありませんか。

これが、いわゆるプレイヤー投影です。

主人公のセリフを自分の声で再生できるからこそ、「自分が冒険している」という感覚が生まれます。
映画を観ているというより、物語の中にズカズカと土足で入り込んでいる感じ、といったところでしょうか。

つまり無口主人公は、マイクをこちらに向けてくれている存在なのです。

しゃべらないのではなく、しゃべる役を譲ってくれている。

この没入感こそが、無口主人公最大のごちそうです。

「リンク」はなぜ黙っているのか

無口主人公界のレジェンドといえば、やはりこの人です。

そう、「ゼルダの伝説のリンク」

彼は何度世界を救っても、基本スタンスは「……」
寡黙オブ寡黙。
勇者界のミスター無言です。

ここまでしゃべらないと、もはや逆に気になります。
「え、今日もゼロ文字?」
「喉の調子ですか?」

と、つい聞いてみたくなるレベルです。

ところがこの沈黙、実はきちんと意味があります。

ゼルダのプロデューサーは、「リンクがしゃべらないことで、プレイヤーごとに違う解釈ができる」と語っています。

つまりリンクは、性格をガチガチに決め打ちされていません。

勇敢な英雄にもなれるし、ちょっと抜けてる青年にもなれるし、壺を割りまくる問題児にもなれる。

プレイヤーの数だけ、リンク像が存在するわけです。
もはや量産型勇者ではありません。完全オーダーメイドです。

しかも面白いことに、開発中にリンクにセリフをしゃべらせてみたところ、

「なんか違う…」
「これじゃない感がすごい」

という意見が続出したそうです。

いや、そりゃそうですよね。急にリンクが流暢にしゃべり出したら、
「誰ですかあなた」ってなります。

こうして無口であること自体が、もはや彼の“個性”になっているのです。

実はめちゃくちゃ現実的な理由

さて、ここまで聞くと、

「なるほど、無口主人公って哲学的でカッコいいじゃん」

と、つい感心してしまいそうになりますよね。

ところが実は、もうひとつ
――かなり現実的で、しかも生々しい理由があります。

それは――制作コストです。

主人公にボイスをつけるということは、

  • 声優さんのキャスティング
  • 収録スタジオの手配
  • セリフごとの演技ディレクション
  • 多言語ローカライズ
  • 口パクや演出の調整

などなど、想像以上にお金と時間がかかります。

しかも選択肢が増えれば増えるほど、収録量は雪だるま式に増殖していきます。

「自由度の高いRPGを作りたい!」

と意気込めば意気込むほど、ボイス付き主人公は制作現場の胃をキリキリさせる存在になりがちです。お察しします。

つまり無口主人公は、
没入感を高めつつ、自由度も確保するための合理的な選択でもあるわけです。

でも無口は万能じゃない

とはいえ、無口主人公がすべてのゲームに向いているわけではありません。

グラフィックがリアルになればなるほど、
カットシーンで主人公が無反応だと、どうしても間が妙になります。

仲間が泣き叫んでいる横で、

「……」

と棒立ちしている主人公。

いや、そこは一言くらい欲しいところです。
「大丈夫だ」とか「必ず助ける」とか、そういう人間っぽいやつをお願いします。

こちらは感情がジェットコースター状態なのに、主人公だけ仏像モード。
温度差で風邪をひきそうです。

そんな違和感を覚えた人も、きっと少なくないはずです。

実際、『Fallout 4』のようにボイス付き主人公を採用した作品では、
「感情移入しやすくなった」という声もあれば、
「選択肢の自由度が減った」という不満も出たようです。

結局のところ、どちらが正解という話ではなく、
ゲームのジャンルや演出によって“向き不向き”がある、ということなのでしょう。

しゃべる勇者、しゃべらない勇者

最近のゲーム業界は、どちらかといえば「しゃべる主人公」路線が主流になりつつあります。

『ウィッチャー』の「ゲラルト」
『サイバーパンク2077』の「V」
『マスエフェクト』の「シェパード」

……etc.

彼らは皆、しっかりした人格と声を持ち、物語を“演じる”主人公たちです。

もう立ち姿からして主役オーラがすごい。
セリフ回しもキレッキレ。
カメラも寄ってくる。
完全に主演俳優です。

一方で、ドラクエ、ゼルダ、ポケモンといった国民的シリーズは、今なお無口主人公を貫いています。(最低限はしゃべったりしていますが……)

こちらはどちらかというと、「あなたが主役です」路線。

しゃべる勇者は舞台のセンターでスポットライトを浴び、
しゃべらない勇者は客席にマイクを向けてきます。

まるで、

「あなたは観客ですか?それとも当事者ですか?」

と問いかけられているような気分になります。

……いや、そんな重たい問いをゲームで投げられるとは思っていませんでしたが、気づけばコントローラーを握る手にも力が入っているわけです。

最後に

沈黙という名のセリフ

ゲームの主人公が無口なのは、しゃべれないからでも、手抜きだからでもありません。

それは、プレイヤーの心の中に言葉を生むための沈黙です。

舞台の中央に立つ俳優が、
あえて一拍置いて観客の視線を集めるように。

真っ白なキャンバスが、
見る人の想像力をそっと試すように。

無口な勇者は、今日も静かに剣を構えています。
……と言いつつ、内心では「さあ、次はあなたの番ですよ」とこちらを見ている気もします。視線、感じます。

あなたが発するはずだった言葉を待ちながら。

「さあ、行こう」

そのセリフは、画面の中ではなく、
あなたの胸の奥で鳴り響くためにある――たぶん。

少なくとも、あの無言の背中はそう言っているはずです。

ABOUT ME
佐藤直哉(Naoya sato-)
佐藤直哉(Naoya sato-)
ブロガー/小説家
文章を書くことを楽しむ自称・小説家です。
歴史や文化、日々の暮らしに潜む雑学を題材に、小噺を発信しています。
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