なぜあの人はカードゲームでいつも勝つのか?──運ゲー論争に終止符を打つ一冊
はじめに

勝てる日は、なぜか自分が天才に見える。
負ける日は、世界のすべてが理不尽に感じる。
カードゲームというのは不思議なもので、人を一瞬で哲学者に仕立て上げます。
「これは運ゲーだ」
「今日は引きが悪かった」
「自分のプレイ自体は間違っていない」
……はい、ここまで全部、昨日の僕です。
でも、同じようなことを思ったことがある方も多いのではないでしょうか?
ただ、ここで一度だけ、カードを置いて考えてみてください。
もし本当に“運だけ”の世界なら、なぜ同じ人が、何度も、しかも安定して勝つのでしょうか。

たまたま?
毎回?
そんな都合のいい偶然が?
この、誰もが薄々感じているのに、あまり触れたくない違和感。
そこに正面から突っ込んでくるのが、筑摩書房の新書 『カードゲームで本当に強くなる考え方』(著:茂里憲之氏)です。
この本がやっているのは、
「このデッキが強い」でも
「この動きが正解」でもありません。
そもそも“強い”とは何かを、数理と心理で分解すること。
地味?
ええ、地味です。
でもこの地味さ、あとからじわじわ効いてきます。
対戦後の反省タイムに、特に。
※本記事は筆者個人の感想をもとにエンターテインメント目的で制作されています。
なぜこの本は「運ゲー論争」に終止符を打てるのか

カードゲーム界隈には、たぶん人類が絶滅するまで続くであろう論争があります。
そう、
「カードゲームは実力ゲーか、運ゲーか」問題。
この話題、飲み会でも大会後の雑談でも、なぜか必ず誰かが投げてくる。
そして結末はだいたい同じです。
盛り上がる。
ちょっと険悪になる。
最後は「まあ、運もあるよね」でお開き。
……はい、時間だけが溶けました。

この論争が不毛になりがちな理由は、とてもシンプルです。
- 勝っている人は「これは実力」
- 負けている人は「今日は運が悪かった」
全員、自分の立場からしか喋っていない。
そりゃ噛み合わない。
本書が面白いのは、ここでどちらかに肩入れしないところです。
カードゲームには、確かにランダム性があります。
ドローは選べないし、初手も祈るしかない。
……ここまでは全員同意。
でも、そこで話を終わらせない。
ランダム性があるからこそ、見るべきなのは「再現性」だと、この本は言います。

つまり、
「この場面で、どんな判断を選び続けているか」
それを100回繰り返したとき、
結果は本当に同じになりますか?という話。
一回の勝ち負けに一喜一憂するのではなく、
百回やったらどうなるかを考える。
これができるようになると、カードゲームの景色が変わります。
「今日は勝ったか?」より、
「今日の判断は、長期的に見て正しかったか?」
……言葉にするとあまりにも正しくて、つい目をそらしたくなりますね。
分かってる。
分かってるけど、できてない。
はい、耳が痛いですね。
僕もです。
書いている人が“理論の人”すぎて信用できる

著者の茂里憲之さんは、元『Magic: The Gathering』のプロプレイヤー。
2021年度当時の制度で、世界に24人しかいなかった「Magic Pro League」に所属していました。
……はい、この時点でもう十分すごいです。
「世界24人」
日本の都道府県(47)より少ない。
トランプ一組(52枚)の半分にも満たない。
でも、この本の本当の強みは、肩書きの強さではありません。
強い人が、“なぜ自分が強いのか”を説明できていること。

これ、冷静に考えるとかなり珍しいんですよね。
というのも、強者の説明はだいたいこうなりがちだからです。
「感覚ですね」
「なんとなく嫌だったので」
「魂で引きました」
……それが毎回できたら、今ごろ全員プロです。
本書がすごいのは、そうした“ブラックボックス化しがちな感覚”を、
- 確率
- 認知バイアス
- メタゲーム
- 言語化
といった、人に渡せる形にまで分解しているところ。

つまりこの本がやっているのは、
再現できない才能を、再現できる思考に翻訳する作業です。
才能そのものはコピーできない。
でも、考え方ならコピーできる。
そう思わせてくれるからこそ、
読んで終わりではなく、次の対戦で試したくなる。
そういうタイプの本です。
5章構成がちょうどいい理由

本書は全5章、約170ページ。
ページ数だけ見ると、それなりにありますが、内容は整理されていて読み進めやすいです。
一章ごとにテーマがはっきりしているので、「今は何の話をしているのか」で迷いません。
その結果、読み終えたときに残るのは
「疲れた」ではなく、
「カードゲームについて、考える軸が一つ増えたな」という感覚です。
第1章:カードゲームの本質

ここで語られるのは、「上達とは何か」
勝ったか負けたか、という結果よりも、
その場でどんな判断をしたかを振り返ろうという話です。
これを読むと、対戦後の反省が変わります。
「ここで負けた…」と項垂れるのではなく、
「なぜこの選択をしたんだっけ?」と自分にツッコミを入れるようになる。
地味です。
でも、こういう地味なところが一番伸びます。
第2章:カードゲームの数理

確率、期待値、条件付き確率。
……と聞いた瞬間、ページを閉じかけた方。
分かります。
その気持ち。
でも安心してください。
ここでやっているのは、電卓を叩く修行ではありません。
不確実な場面で、どっちを選ぶ方がマシかを考えるための話です。
「当たるかどうか」ではなく、
「外したときに、どれくらい困るか」も含めて判断する。
これができるようになると、カードゲームだけでなく、
日常の選択まで慎重になります。
……慎重になりすぎて、昼ごはんが決まらなくなるのが玉にキズですが。

第3章:カードゲームの心理

ここで扱われるのが、認知バイアス。
負けた原因は運。
勝った理由は自分の腕。
人間に標準搭載されている、便利で厄介な機能です。
本書は、この“自分に甘い解釈”を、
やさしく、でも逃がさずに指摘してきます。
読んでいて刺さる。
でも、不思議と嫌な感じはしません。
なぜなら、
「はいはい、これ自分もやってるやつですね」と心の中で頷いてしまうから。
第4章:真に上達するための練習

この章を読むと、
「とりあえず回数をこなそう」という作戦が、
いかに雑だったかを思い知らされます。
- ミスはなくならない
- だから向き合い方が大事
- 言語化しない練習は伸びにくい
耳が痛い。
でも、全部正しい。
「分かってるけど、やってない」ことが、
丁寧に、しかも逃げ道を塞ぐ形で並んでいます。
……はい、ここで深くうなずいた人、仲間です。
第5章:デッキビルダーとして考える

構築はセンス。
……と言いたいところですが、この本はそこでも終わりません。
そのセンスを、
「何を取って、何を捨てたのか」という形で分解していきます。
トレードオフ、という言葉を使いながら、
デッキが“選択の集合体”であることを丁寧に説明してくれます。
コピーして回す派にも刺さるのは、
なぜその60枚なのかが分かるようになるから。
理由が分かれば、環境が変わっても
「えっと…次どうするんだっけ?」と立ち尽くさなくて済むようになります。
この本が向いている人

正直に言います。
この本、誰にでも無条件でおすすめできるタイプではありません。
でも、次の項目を読んで「……あ、これ自分だ」と一つでも思ったなら、かなり相性がいいです。
- 勝つ日は勝つのに、なぜか安定しない人
- 反省会が毎回「今日は運が悪かったな」で終わってしまう人
- 練習量はそれなりなのに、手応えが増えない人
- デッキを見て「強そう/弱そう」は言えるけど、理由は説明できない人
- タイトルや環境が変わっても通用する“考え方”が欲しい人
……はい、いくつ当てはまりましたか?
逆に、
「俺は直感で勝つ。それが俺のスタイルだ」
という人には、この本は少し落ち着きがなさすぎるかもしれません。

なにせこの本、
「その直感、なぜそう思ったの?」
と、しつこく聞いてきます。
ただし。
その直感に、
「こういう理由で、こう判断した」
という言葉が一つ乗った瞬間、
直感は“たまたま当たった勘”から、
何度でも使い直せる武器に変わります。
この本が向いているのは、
才能に頼りたい人ではなく、
強さを積み上げたい人です。

最後に

読後に残るのは、派手さではなく“静かな強さ”
この本を読んだからといって、
明日いきなり大会で優勝できる──
……なんてことは、残念ながらありません。
必殺コンボも載っていませんし、
引いた瞬間に勝ちが確定するカードも出てきません。
「え、じゃあ何が変わるの?」と思いますよね。
変わります。
負け方が変わります。
今までなら、
「今日は引きが悪かったな」で終わっていた試合が、
「じゃあ次は、どこを変えればいいんだろう?」に変わる。
これ、地味ですが相当大きい変化です。

なぜなら、
“次にやることが分かる負け”は、
もう負けではなく、
ほぼ途中経過だから。
そうやって一つずつ考え直せる人は、
気づかないうちに、
ちゃんと強くなっていきます。
派手じゃない。
でも、確実。

『カードゲームで本当に強くなる考え方』は、
勝ちたい気持ちを
一発逆転ではなく、
積み上げに変えてくれる本です。
静かに、でも確実に強くなりたい人には、
かなり相性のいい一冊だと思います。
書誌情報
- 書名:カードゲームで本当に強くなる考え方
- 著者:茂里憲之 氏
- 出版社:筑摩書房(ちくまプリマー新書 505)
- 定価:990円(税込)
- 刊行:2025年10月
- ページ数:約170ページ
※数理パートに関する誤記・訂正が出版社公式で告知されています。
読書の際は公式情報もあわせてご確認ください。

