200円になっても、なぜ自販機はまだそこにいるのか――「減ってるのに減った気がしない」ニッポン自販機の正体
はじめに

「また値上げかよ…」
深夜0時。
終電を逃したわけでもないのに、なぜか気持ちだけは“深夜テンション”に突入している帰り道。
喉は砂漠。
頭の中にはオアシス。
そして目の前には、自販機。
そこで光る「200円」の文字。
まるでこちらを挑発してくるかのようにキラキラしている。

「おいおい、飲み物1本が200円って、もはや高級品じゃん…!」
と心の中で全力ツッコミを入れながらも、他に店は閉まってるし、喉は正直。
結局はICカードを“ピッ”とタッチ。
はい、完敗。
ボトルがコロンと落ちてくる音を聞きながら、ふと周りを見渡すと気づくんです。
――あれ、自販機、多すぎない?
しかも減るどころか、むしろ増えて見えるんだけど?
商店街はシャッター祭りなのに、角を曲がれば自販機、マンションの下にも自販機。
もう「自販機をさがせ」状態。
いや、探さなくても勝手に目に飛び込んでくるんだけど。
でもね。
データをちゃんと見ると、この“体感”ってちょっとおかしいことに気づくんです。

実は、自販機はじわじわ減っています。
しかも、飲料自販機界は今、価格高騰・電気代アップ・物流問題という“三重苦”で、業界全体がサバイバルゲームに突入中。
儲からない場所に置かれた自販機は、静か〜に撤去されている。
まるで何事もなかったように気配を消していく忍者のように。
逆に生き残るのは、売上の立つ“エリート自販機”だけ。
いわば厳しい選抜試験を突破した少数精鋭たちなのです。
あなたが「200円、高っ!」と思いながら押したボタンの裏では、壮大な淘汰ドラマがじわじわ進行しているわけですね。
※本記事は筆者個人の感想をもとにエンターテインメント目的で制作されています。
2025年12月執筆時での情報で作成されています。
自販機は「実は減っている」けれどゆっくり静かに

まずは事実確認から。
日本の自販機の数字を出している公式な団体に、「日本自動販売システム機械工業会(JVMA)」という業界団体があります。
自販機に関するニュースや記事がだいたいここをソースにしている、いわば“自販機の国勢調査”のような存在です。
このJVMAのデータによると、
- 2013年頃の飲料自販機のピーク台数:約247万台
- 2024年時点の飲料自販機:約204万台
ざっくり 10年ちょっとで40万台以上減った計算 です。
毎年にすると、おおよそ 5万台ペースでじわじわ減少。

さらに、飲料だけでなく、たばこやチケット類などを含めた「自販機全体」で見ても、
- 2000年頃:約560万台(ここが歴代ピーク)
- 2024年末:約391万台前後
と、こちらも長期的にはしっかり右肩下がり。

数字だけ見ると、「いやいや、けっこうガッツリ減ってますけど?」というレベルです。
自販機が“絶滅危惧種”とまでは言わないまでも、少なくとも“増えてる”なんてことは全くない。
じゃあ「自販機減ったよね〜」という空気になっているかというと…そんな話、あまり聞かないですよね。
SNSでバズるのは「200円は草」みたいなツイートであって、「あの角の自販機がなくなって寂しい」みたいなポエムではない。
このギャップの正体はどこにあるのか。

なぜ“減っているのに多く見える”のか

答えから言うと、日本の自販機密度がもともと異常に高すぎる せいです。
世界全体で見ると、自販機の台数トップはアメリカと言われています。
およそ650万台前後とも言われますが、日本も最大時で約500万台規模。
国土面積と人口を考えれば、「いや、それほぼ同格やん」というレベルです。
特にインパクトがあるのが、「人口あたり自販機台数」という視点。
ある調査では、
日本は人口23人に1台レベルで自販機がある
と紹介されています。

たとえるなら、街を歩けば“信号より先に自販機が見つかる”ような密度感です。
ここから毎年5万台ずつ減らしたところで、そりゃあ体感では分かりにくいわけです。
もともと“自販機”のボリュームがありすぎる。
さらに厄介なのは、減っている場所の偏り です。
減少しているのは、主に
- 人通りが少ない郊外
- 売上があまり立たない住宅街のはじっこ
- ロケーションが微妙な路地裏
など、「収益性が低い場所」からです。
逆に、
- 駅ナカ
- オフィスビルの中
- 工場・病院・学校の敷地内
といった
「人が絶対にいる場所」
「他に選択肢が少ない場所」
には、むしろ自販機が集中配置されていく流れになっています。

つまり、自販機は
「とりあえずどこにでもあるもの」から、
「売れる場所だけにしっかり居座るもの」
へと、密かにキャラチェンジしているわけです。
その結果、私たちが日常的に通るルートには自販機が残りやすく、「減ったはずなのに、むしろ視界にはよく入る」という逆転現象が起きている、というわけですね。
200円時代の到来で自販機ビジネスは変わるのか?

さて、ここ数年で自販機をめぐる最大のニュースは、やはり価格の高騰でしょう。
代表例として、コカ・コーラの500mlペットボトルの自販機価格をざっくり追うと、
- 2022年ごろまで:140円前後
- 2022年〜2023年:160円へ
- 2024年10月:180円へ
- 2025年10月:200円へ(税別180円 → 200円)
と、一気に“200円の壁”を突破してきました。
他のメーカーも同様で、2022年以降は各社が4〜25%規模の値上げを何度も実施。

街の自販機を見渡すと、
- 缶飲料:130〜150円
- 500mlペット:150〜180円
- 一部ブランド:堂々の200円
というのが今の「普通」の価格帯です。
かつての「缶100円・ペット150円」は、もはや“安売りセール”扱いと言ってもいい状態です。
ここで気になるのが、「そんなに値上げして、お客さん離れてないの?」という点ですよね。
実際、コカ・コーラボトラーズジャパンの決算説明などでは、2023年の価格改定後、自販機での販売数量が前期比6%台の減少といったデータが出ています。

単価は上がるけど本数は減る。
家計も自販機にツッコむお小遣いを、ちゃんと節約しているわけです。
さらにコンビニやドラッグストアとの価格差も効いてきます。
- 自販機:500mlで180〜200円
- コンビニ:同じくらいの容量で150円前後
- スーパー・ドラッグストア:特売なら100円以下
正直、「同じ飲み物なら、ちょっと歩いてコンビニで買うか…」となるのが人情です。
自販機は、もはや「喉が渇いたときに真っ先に思い出す選択肢」から、「時間と手間をお金で買う最終手段」へとポジションが変わりつつあります。
その結果どうなるかというと――
- 売上本数が少ない場所の自販機:赤字になりやすい → 撤去候補
- それでも売れる場所の自販機:高単価でも売れる → 生き残り&進化
という、ある意味とても資本主義的な「弱肉強食」が進行中です。
電気代と人手不足というもうひとつの“見えない敵”

値上げの裏には、原材料や物流コストの上昇がありますが、自販機にとって地味に効いているのが電気代と人手不足です。
自販機は24時間365日、飲み物を冷やしたり温めたりし続ける冷蔵庫兼ヒーターみたいな存在。
省エネ型の最新機であれば、
- 月の電気代:2,000〜3,000円前後
と言われていますが、古い機種や環境によってはもっとかかります。
電気料金が上がれば、その分だけじわじわと利益を削っていきます。

そして、忘れられがちなのが補充する人の存在です。
あのトラックで街を回りながら、自販機にひたすら缶やペットボトルを補充していく仕事。重労働なうえに長時間、しかも人手不足。
いわゆる「物流2024年問題」の波は、自販機業界にも確実に押し寄せています。
結果どうなるか。
- 売上が微妙な自販機:わざわざ人とトラックを回すほどの採算が合わない
- 電気代も上がっている:置いておくだけでコストがかかる
→ そっと撤去、あるいは最新の省エネ機に入れ替え&台数を減らす、という判断が増えるわけですね。

“電気代ショックで一斉撤去”みたいな派手なイベントは起きていませんが、
「古い・売れない・手間がかかる自販機」から静かに消えていく
という、非常に現実的な整理が着々と進んでいると考えるとしっくりきます。
それでも自販機が「簡単には消えない」理由

ここまで読むと、「じゃあこのまま自販機は絶滅していくの?」と思うかもしれませんが、そう単純でもありません。
むしろ今は、
「数は減るけど、価値の高い自販機だけが残る時代」
に入った、と言った方が近いでしょう。
インフラとしての役割

まず、自販機には社会インフラとしての側面があります。
- 深夜・早朝でも、水分を買える
- 病院や工場、学校など「場内から出にくい」場所での命綱
- 災害時の飲料供給ポイント(自治体と連携して“災害対応自販機”になっているケースもある)
こうした場所は、コンビニやスーパーで代替するのが難しい。
だから、多少コストがかかっても、自販機の存在価値は高いままなのです。
ビジネスとしての“うまみ”はまだある

メーカー側から見ても、自販機はまだまだ捨てがたい存在です。
- 基本、定価販売ができるチャネル(売り場・販売経路)
- 大きなブランドロゴを貼れる広告塔
- キャッシュレスやアプリ連携によって、誰がいつ何を買ったかというデータの宝庫
最近では、時間帯や気温によって価格を変える「ダイナミックプライシング自販機」や、AI・IoTで在庫や補充ルートを最適化する取り組みも進んでいます。
もはや自販機は、「飲み物を売る箱」から「小さな無人店舗兼データ端末」になりつつある、と言ってもいいかもしれません。
多様化する“中身”たち

そして、そもそも中に入っているものも変わってきています。
- 冷凍餃子・ラーメン・焼肉用の肉
- 地元パティスリーのケーキやスイーツ
- 農家さん直送の野菜
コロナ禍以降、
「非接触で買える」
「人手をかけずに24時間売れる」
チャネルとして、変わり種自販機は一気に増えました。
つまり、飲料自販機はじわじわ減っていく一方で、
「自販機」というフォーマット自体は、形を変えながら生き残り、むしろ進化している
とも言えるわけです。
最後に

200円のボタンを押すたびに、ちょっとだけ思い出してほしいこと
ここまでの話をざっくりまとめると、
- 自販機の台数は、数字上は確実に減っている
- 飲料自販機はピーク時から40万台以上減少
- 全体でも2000年前後のピークから、長期で右肩下がり
- それでも「減った気がしない」のは、
- もともと密度が異常に高い
- 撤去されるのは売れない場所からで、私たちの動線上には残りやすいから
- 度重なる値上げとコスト増で、
- 赤字自販機は静かに撤去
- 売れる場所の自販機は、高単価・高機能化して生き残る
という構図でした。

街角の自販機は、のんきに光っているように見えて、実はかなりシビアなふるいにかけられながら、生き残りレースを走っています。
今後も飲料自販機の数は、きっと少しずつ減り続けるでしょう。
一方で、冷凍食品やスイーツ、キャッシュレス決済、アプリ連携など、「自販機の中身」と「役割」はますます多様になっていくはずです。
だから、次に200円のペットボトルのボタンを押すとき、ちょっとだけ思い出してみてください。
この1本の裏で、どれだけの自販機が静かに撤去され、どれだけの新しい自販機が生まれ変わろうとしているのか。
そう思うと、いつもの「プシュッ」という音が、少しだけドラマチックに聞こえてくるかもしれません。

